第187話 偶像崇拝
探検隊による旧校舎探索が本格的にはじまった。
されど、徹底してあらゆる文字が失われており、たまに床に落ちている、張りついた古びた紙すら、もはや何が書かれていたのかは定かではない。
足を使って片っ端から調べていると、ベッドが並べておかれた簡素な部屋をいくつも見かけた。
保健室のベッドにしては、あまりにも多い。
イメージだが、軍隊の兵舎などこんな感じに似ている気がする。
あるいはベッドの並べられた病室が該当する。
この学校では医術かなにかを教えていたのか?
不思議な点もある。
それは、俺たちが入ってきた仕掛け扉、その手前にあったおおきな講義室のような、授業のための教室が見当たらないことだ。
あのサイズの講義室ではなくとも、もっとこじんまりとした小さい教室すら見つからない。
なんだか、もとから持っていた前想像とずいぶんとちぐはぐな感じがある。
ここは学校だったはずなのに。
「もう、なにも見つからないのですよ! あの仕掛け扉の部屋と同じなのです、なーんにも残ってないです!」
「綺麗に撤収作業が行われたのだろう。魔術の知識は脈々と繋ぐことが
壁一面に棚が設置された小部屋を魔法の火で照らしだし、そこに何も目ぼしいものが見つからないとわかり、またもや落胆する。
「この調子だと、過去の文献などは見つからなそうだな。もしかしたら、ゲートヘヴェン卿が言っていたのは紙に文字として記された情報ではないのかも知れん」
「む、どう言うことだ、コートニー・クラーク。また余計な知識をひけらかす悪いくせを露呈させるのか?」
チューリの挑戦的態度を鼻を鳴らして一蹴し、コートニーは壁側の上方を指差した。
そこには、枠取りされたくぼみに、像が安置されている。
もとは綺麗な石像だったのかもしれないが、もはや細部はけずれ、のっぺりとした輪郭だけが見て取れる。
板だろうか、比較的薄い何かを、背負っている異形のように見えた。人型ではあるが、ツノとかキバっぽのがあるので、やっぱり人間以外のなにかを表しているのだろう。
「あれと似た像が、ここまでの部屋、廊下、シャンデリアの一部にも描かれていた。何かのシンボルなのは間違いない」
「あ、そういえば、アーカムくん、ゲートヘヴェン卿が言っていたのですよね、ドラゴンクランは信仰を
ふむ、となるか。
だとしたらあの
巨人と何か関連したものなのか?
今のところ繋がりは不透明だ。「
「どちらにせよ、まだ何もわからないですね。ゲートヘヴェンさんは何を見せたかったんですかね」
小部屋から出て、となりの立派な両開き扉を押し開けてすすむ。
「かの古代竜が学院側ではなく、他ならぬアーカム個人にあたえた助言だ。必ずなにか意味がある。やけにたくさん設置されたあの像もそうだが、ほら、見てみろ」
「あれは……」
両開き扉のさき、青く薄明るい視界に長椅子がいくつも、いくつも列をなして置かれた部屋を見つける。
「
チューリが光源である火の玉を部屋の中空になげて、礼拝堂の全体像を照らしだして言った。
礼拝堂の中央、いかにもな聖像らしきものが置かれてある。
これもさっきと同じ像。
やたらとサイズは大きい。
細部が削れることなく、こちらでは小さな像たちが表していたものが見てとれる。
のっぺりしていた像の正体は、
人がおよそ想像しうる典型的な恐怖のかたち。
それが、どうして五芒星に潰されているのか、素朴な疑問はつきない。
「この旧校舎はやけに信仰を大事する姿勢が強く、集団生活をするための設備が整っている。学生寮が学校内にあったのかと疑うレベルだ」
像に近づきながら、コートニーはつづける。
「本当にここは学び舎だったのか……修道院でもあったと言われたほうが、私は納得できるが」
「それも、そうですね。こんな立派な礼拝堂がありますしね」
この旧校舎の施設は確かに、教え学ぶ、という事を目的として作られてない、そんな雰囲気はしている。
修道院が先にあり、そこから学ぶ場として発展していったと。
ふむ。だとしたら、あのシンボルはトニー教となにか関係でもあるのか。
今のところトニー教以外の宗教をみないので、唯一の宗教として、おそらく何かしらの関係があると思うのだが。
「見えない、なぁ」
肝心の情報はつかめない。
この校舎の背景はわずかに推測可能。
しかして、どうすれば巨人事件の手がかりを掴めるのか。
唇を尖らせ、杖先の火で像を照らす。
「……」
何気なく異形の姿をしたその牙に指を触れてみた。
「ッ」
「なんだ?」
「シェリーの魔感覚が唸ったのですよ!」
「え、え、俺何もしてないからな!」
皆がハッとして俺のほうを向き、俺は両手をあげて無実アピールする。
ふと、気づく。
像の地点から見える礼拝堂の全貌。
チューリの放った火炎の照明弾に照らされる並ぶ長椅子の数々、それらすべてを埋めつくさんと、
突然として出現しやがった。
息をのみ、俺は素早く刀に手を伸ばした。
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