第7話 クルクマの町
クルクマの町。
そこは緑豊かなローレシア魔法王国の田舎町だ。
あたりの草原では遊牧がおこなわれ、大麦畑や小麦畑などが広がっている。
寒い時期は麦畑は一見、10数センチほどの雑草が無数に生えた草原のように見えるのだが、規則正しく苗が並んでるところを見ると、この視界を埋め尽くす広大な土地すべてが畑だとわかるだろう。
町並みは、レンガつくりの建物が多く景観が統一されていた。
ところどころ植物のつたが外壁を覆いつくしてるような建物もあって、なかなか
森から流れてくる川が町の中央を横断しており、そこへたくさんの水路が合流する様はまさしく自然との調和を見事に体現していると言える。
森の中のアルドレア邸から、畑地帯、町中、橋と順番に越えると、RPGに出てくるような武器・防具屋が出現した。
茶レンガで造られた大きな建物で、倉庫の中に2つの店舗をかまえているようだ。
いかつい男たちがひしめき合う、恐ろしい光景の中アディに肩車されながら、進んでいく。
外は肌寒かったのに、倉庫内は熱気に満ち満ちていて温度差がすさまじい。さらに「カンッ、カンッ!」と鉄を打つ音がどこからともなく聞こえてくる。
「父さん、いったいこの地獄のような場所に何しに来たんですか?」
遠慮なく、見たまんまの感想を口にする。
おそらくこの光景のせいでアディはエヴァたちに買い物を済ませるように指示したんだと勝手に推測。
「ははっ、地獄か。まっ、あながち間違ってないかもしれないな。今から会いに行く男は、普段から鉄を食ってる地獄の鬼のような男だからな」
「……ぇ」
もののたとえであること祈りながら戦慄していると、アディは長い鋼の剣をいじっている青年に話しかけた。
「やぁ、カイワくん元気してるか?」
「アディさん! こんにちは、もう王都から帰ってきてたんですね」
「ああ、さっき帰ってきたところだな。最近は我らのレトレシア魔術大学でグランドウーサーとかいう怪物を飼い始めたらしい。むこうだとその話題で持ちっきりだったぜ」
アディは鼻をこすり嬉々として最新のニュースをカイワ青年に伝える。
「へぇ、大学に怪物を飼育するなんて……ゴルゴンドーラの考えは僕みたいなのには測れませんね」
「あぁ本当にな……。んで、カイワくん、今日はタングのやついるか?」
「ええ、親父ならいつでも鍛冶場にいますよ……ところで、そちらのお子さんはもしかして……?」
「ふふ……」
なるほど、そろそろ俺の出番らしい。
ここはアディにいい顔させてやろう。
「俺の息子だ」
アディは自慢げに親指で俺を示しながら言った。
「こほん……はじめまして、カイワさん。ご紹介に預かりました、父アディフランツ・アルドレアが息子のアーカム・アルドレアです。これから長い付き合いになると思います。以後お見知り置きを」
どこかで聞いた、丁寧風な自己紹介をアディの頭の上からおこなう。
「!?」
ははん、わかりやすい「!?」って顔をする青年だ。このにいちゃんの度肝抜いてしまったかな?
「ふふ、どうだ、すごいだろ?」
「こ、これは驚きましたよ! あ、1歳のお誕生日おめでとうございます、アーカム君」
ニコリとさわかやな笑みを向けてくるカイワ。
というか、待て待て、俺の個人情報がダダ漏れじゃねーか。
「あのなんで知ってるんですか? ちょっと恐ーー」
「1歳の誕生日に、ここにつれてくるって、約束してたんだよ」
「ん、なんだ、そういうことです、か」
「そういうことですよ〜。はは、それにしても、ほんとに喋れるんですねぇ~」
武器屋の店員、カイワと呼ばれた青年はひどく驚いた様子の顔でまじまじとこちらの事を見てくる。
内容だけ聞けば、「馬鹿にしてんか、メン!」と啖呵を切って、フリースタイルでラップを刻んでやってるところだ。
だが、そうはしない。
アディやエヴァはもう慣れているため、1歳の息子が喋ろうが、歩こうが、庭で柴犬相手にラップバトルを仕掛けていても驚かない。
たが、普通の人にとっては1歳の幼子が流暢に喋るだけで「!?」という顔をせずにはいられない。
普通は、誰だってそーなる、俺だってそーなる。
「タングに『アディが息子を連れてきた』って言って、呼んできてくれよ」
「そうですね。ちっちゃい子に鍛冶場は熱くて危ないですからね、了解です!」
「そうそう、それにあの全裸のショッキングなところを見せたくないしな」
「ははっ、確かにあれはバケーー」
開け放たれる扉。
「誰が変態じゃあ!」
「ぶふぇッ!」
突然の怒声。扉の近くにいたカイワはだんがんみたいに勢いよく吹き飛んでいく。
「おわっ!」
それはもはや芸術なのでは。そうと疑問を持たれてもたやすくは否定できない飛び方をしたカイワは、扉とは反対側の倉庫壁にすさまじい勢いでぶつかり静止した。そして、動かなくなった。
「ぐへぇ……」
人ってあんなふうに飛ぶんだとかも気になるけど、それよりカイワ死んだよね、ね、ね?
開いた口が塞がらないとはこの事を言うのか。
何が起こったのか未だに理解が追いつかない。
「よっ、タング。帰ってきたぜ」
「ふんっ! 別に帰ってこなくてもいいわい! 道端でぼろ雑巾のようにくたばっててもかまわなかったんぞ?」
「おいおい、全裸で鉄と戯れる変態のいる町に、家族を置いて逝けるかよ」
何事もなかったように談笑を始める2人。
突如、俺たちの前に現れたのは、身長200センチはあろう筋骨隆々のジジイ。盛大に禿げ散らかした頭部を持つこの上裸ジジイはアディの知り合いなのだろうか。
「それで、1歳の誕生日だから息子を連れてきたと。律儀なことじゃな」
「まぁな、約束はしっかり果たさなくちゃだからな!」
「ふん! 何が約束だ。現金なやつめ!」
2人が話している内容に耳を傾ける。
どうやらこの2人は俺が本当に喋れるかどうかで、ある賭けをしていたらしい。
アディは俺が喋れなかったら、なんでもしてやると煽って挑発したらしく、それにタングじいさんが乗って、今の状況というわけだ。
ちなみにタングじいさんは俺が喋れたら、剣をひとつ売ってやるといったらしい。
「てなわけで、ちゃんと剣を頂きに来たのさ。このじいさんは変態だが鍛治屋としての技量は随一だ」
「なるほど、そういうことでしたか」
「はんっ! なんがなるほどじゃ! 流暢に喋りおって! なかになんか入ってるんじゃあるまいな?」
え、バレてないよね?
嫌だよ、火事場の親父に一番はじめに正体見抜かれるとか。
「それじゃ、タング、頼んだ。短剣で良いぞ」
「ん、短剣でいいのか。お前が振れる剣なぞ限られるだろうに。もしやアディ、その子に剣を教えるつもりか?」
タングじいさんは訝しげに片眉をあげてアディへ問いかける。
ファンタジー世界なんだし、俺も剣術とかも習ったほうがいいのだろうか?
体育会系の領域っぽいしあんまやりたくはない。汗かくの嫌だしな。どうせなら魔法が良いなぁ……。
「あのー父さん? 僕、剣術とかはちょっとぉーー」
やんわりと断る姿勢を作っておこうとすると、
「いいや、強要するわけじゃないさ。そもそも俺は技術で剣を振ってきたわけじゃないから、剣は教えられないしな。
だから嫁と協力して魔法を教えるつもりさ。アークだってそれを望んでる。ただな、いろんな道を示してあげたいんだよ。狭い視野にとらわれずいろんな可能性を試してほしいのさ」
「なるほどのォ……。あのろくでなしの『
タングじいさんは感心したように頷いてアディを見ると、黙して店の奥のほうへ引っ込んでいった。
しばらくタングじいさんについてアディと話した。
このタングという人物は、かつては大国グンタネフ王国の王都グンタネフで、最高の鍛冶屋を決める大会の7位にランクインしたらしい。
反応に困る順位だが、きっと凄いのだろう。
遠い町からわざわざタングじいさんの武器を求めて来る者もいるんだとか。やはり相当の鍛冶師に違いない。
「待たせたのぉ」
奥からタングじいさんが帰ってきた。
じいさんの顔がやけに嬉しそうだ。
どうしたんだろうか?
「いや〜、探してたものよりかなり良いものが見つかったぞ! ほれ特別にこれを持ってっていいぞ!」
「ん?……軽いな! なんだこれ!」
じいさんが持ってきたのは刃渡り40センチほどの白い刀身の短剣だった。
ほんのり光を放っているように見えるのは気のせいだろうか?
「あぁ、世にも珍しい完全物質、東国のカルイチウム鉱で鍛えてあるからの。羽毛のように軽いはずじゃ、それに武器魔力もなかなかじゃろ? 脂の乗っていた20年前にワシが彼の地で鍛えた逸品よ」
「20年前? おいおいそれじゃ、俺には隠してたのかよ。こんなのがあったならくれよなぁ。いい剣だなぁ」
「それがな、ワシもさっきまで忘れておったんじゃわい。短剣をくれてやろうと倉庫をひっくり返したら、
たまたま懐かしいその短剣が見つかっての、その坊主にちょうど良いかと持ってきたんじゃ」
どうやらかなりの掘り出し物を貰えそうだ。
アディが興味津々に短剣を吟味している。
「良い剣なんですか?」
「あぁ……これは相当にいい剣だぞ。父さんが冒険者をやっていた頃だったら、剣を奪うためにこのジジイを殺してでも欲しいレベルだ……」
まじかい。
そんなのタダで貰っちゃっていいのかよ。
あとで返せとか言わないよな?
「物騒なこと言うんじゃないわいっ! もう返せい!」
早速、言いやがるからに。
「おおっと、これはもう俺がいただいた!」
「アホか! お前じゃなく、坊主にやったんじゃ!」
アディが先ほどの可能性がどうのと言っていた、威厳ある父親像を自らぶち壊しはじめた。
俺への贈り物のはずが、思ったより良いものが手に入ってしまい自分が欲しくなってしまったようだ。
子供かて、あんたは。
「アークは剣を始めるにはまだ早いからな、どっちにしろしばらくはこの俺が預からせてもらうぜ!」
「ええい! くそっ! なんなんじゃこのアルドレアは!」
その後、2人はしばらく言うい合いをしていたが、結局、俺たちはタングじいさんに呆れられる形で倉庫から追い出されてしまった。
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