第4話

それでも無視してチャーシューを取ろうとしたとき、何かがチャーシューをつかんだ。


――えっ?


女だった。


女が箸で私のチャーシューをはさんでいたのだ。


女はそのままチャーシューを自分の口に入れ、ぺろりとたいらげた。


そして私の顔を見て鼻で笑うと、定員にむかって天津版を注文した。


――なんだ、こいつ?


最初、あっけにとられたが、すぐに気を取り直した。


今目の前であったことは、見知らぬ女が何も言わずに私のチャーシューを取って食べたのだ。


私はあらん限りの大きな声で文句を言ってやろうかと思ったが、結局やめた。


そのまま楽しみにしていたチャーシューがなくなったラーメンを食べた。


私は誰もが知る大手企業で出世をし、もうすぐ取締役になれるかもしれないというところまで上り詰めていた。


仕事一筋で働きづめで、ここまでの地位を手にいれたのだ。


それなのにここでこのたちの悪い女と揉め事を起こして、最悪警察ざたにでもなったとしたら、それはものすごく都合の悪いことになる。


おまけに去年、私の息子が同じ会社に入社しているのだ。


何かあれば私だけではなく、息子にまでなんだかの影響がおよぶことだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る