第5話 あの春の日

 自分はキャラメル味のフラペチーノを頼んだ。正しい飲み方がよく解らないけれども適当にクリームを崩したりして混ぜて飲んでみる。

 自分の思考はフラペチーノに移っていた。どうやったら美味しく飲めるのか、そんな事を考えていたらふと、春のある体育の授業を思い出した。

 あれは半年ほど前になるのか。



 あの日は風が強かった。確か運動会の練習で、校庭で創作ダンスを考えていた日だ。

 休憩時間、校庭のすみで鏡を見ている瀬戸友里を発見した。多分風で髪型が崩れる事を気にしているのだろうと思っていた。

 しかし瀬戸友里は鼻穴に指を入れて鼻毛チェックをしていた。

 何故それが鼻毛チェックだったのか解るのかというと、瀬戸友里が近くに来た友人に「鼻毛チェックしている」と申告していたからだ。


 ある春の日の朝日未華子も思い出した。あの日は学校帰りにスーパーで朝日未華子を見かけた。

 スーパーの通路に、団体のマダム族がいた。特売に群がっている訳ではなくお喋りをしている様子だった。

 そこを通る為に朝日未華子は「すみません」と声をかけたが、マダム族の大声にかき消されてしまった。

 その瞬間、朝日未華子はマダム族の中を無理矢理、モーゼの海割りのごとく通り抜けた。

 後に残されたマダム族からは「まっ」とか「あらあら」などと声が上がっていた。

 朝日未華子は速度を弱める事なく進んで行った。



 女子達の長いお喋りタイムがようやく終わりそうだ。これを見越してフラペチーノは一番大きいサイズを注文しておいた、正解だった。

 先に帰り支度を始めたのは瀬戸友里チームだった。

 朝日未華子チームもそろそろ帰るだろう。

 自分は携帯を眺めて耳はそちらに集中させていた。


 

 帰り道、最後の仕上げをする。

 あらかじめ弟に協力を頼んである。これから弟は彼女達に道を尋ねる。

 瀬戸友里と朝日未華子側からしたら【夕方、知らない男に道を聞かれる】状況になる。


 弟は、少し怪しく見えるように軽い色付き眼鏡をかけている。

 服は、自分の服を貸した。濃い色のスキニーズボン、薄手のロングコートの中にグレイのパーカーにリュック。足元はスニーカーにした。弟は長身なので大学生に見えるだろう。


 カフェから大通りに出るまでの間、人通りが少なくなる場所がある。そこで声をかける。

 ドラッグストアはどこですか、そう尋ねる。すぐに口頭で教えられる場所だ。


 弟に声を掛けられた瀬戸友里は怪しそうだな、と思いながらもドラッグストアの場所を教えた。

 弟に声を掛けられた朝日未華子は「解りません」ときっぱりと言い立ち去った。



「姉貴、役に立った?」

 帰宅した弟から報告を受けた。

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