よもやま話(15):比喩を使うときに注意していること。

 比喩って色々な種類がありますが、使いどころが難しいですよね。しかも、安易に何も考えずに使ったりすると、イタい文章になったり、かえって分かりにくくなったり、読み難くなったりします。


 比喩を使う目的とはなんでしょうか?


1)分かりにくい状況を誰にでも想像できるようにする。

 例:彼は猿のように身軽な動きで飛び移り、猫のようなしなやかさで着地を決めた。


2)主観者の心情を分かりやすい物事に例えて伝える。

 例:僕の心は春の陽気のように朗らかだった。


3)説明的な表現や直接的な表現を柔らかくする。

 例:「お花でも摘みにいかれたのではなくて」


4)言葉にするのをはばかられるような物事を間接的に伝える。

 例:「パパはあそこよ」母はそう言って小さな娘とともに夜空を見上げた。


5)読者をなるほどと感心させたい。読者をクスっと笑わせたい。


6)作者の自己満足や虚栄心。文章を美しくしたり、格好良くしたい。


 みたいな感じでしょうか。5)、6)の例えは勘弁してください。


 上にあげた1)~6)は、私が比喩を使うときの優先順位です。6)みたいな理由で比喩を使うことがないように心がけています。5)の理由で使うことは稀にあります。1)~4)の理由で使うことはあります。


 そもそも比喩とは、分かりにくく説明しづらい状況を、読者に分かりやすいようにするために使う技法だと私は考えています。


 普通の文章なら1)だけで十分なんですが、小説や詩などになると、そこに主観者の一種独特な心情を伝える必要が出てきて、2)~4)が比喩を使う目的になります。


 5)は平坦な文章が続くときとかに、アクセントとして使う場合があります。しかしとても難しいので注意が必要です。


 2)~4)の比喩表現は多少分かりにくくても、表現が世界観と合致しているならばそれほど問題になりません。しかし、1)の場合は比喩を使ったほうが分かりやすくないと致命的です。


 例えば、


『僕の脳裏に、懐かしい思い出が走馬灯のようによぎった』


 みたいな言い回しです。


 いまどきの読者が走馬灯と聞いて、イメージがパッと浮かぶでしょうか?


 上の例を書き換えるなら、例えば、


『僕の脳裏に、懐かしい思い出が次々に浮かんでは消えていった。それはまるでスライドショーのようだった』


 のほうがまだ分かりやすいです。というか、わざわざ比喩を使わずに


『僕の脳裏に、懐かしい思い出が次々に浮かんでは消えていった』


 だけで十分のような気がしています。


 他にも、


『墨汁で塗り固められたような漆黒の闇夜』


 みたいな二重三重の表現にも気をつけたほうがいいかもしれません。


 とにかく比喩は難しいです。使うときは細心の注意を払うに越したことはありません。


 ついうっかり常套句を使ってしまわないように、ちゃんと分かりやすくなっているのかを、常日頃から意識しておくといいのかもしれません。



 今回はココまでです。

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