よもやま話(14):説明的描写を、らしい描写に~人物描写編~ 

 今回は人物描写についてです。


 人物描写は、Web小説においては省かれることが多いと私は感じています。とくに一人称小説で主観主本人の描写が省かれがちです。


 男主人公の小説ならばヒロイン、女主人公ならばヒーローの人物描写は省かれることが少ないですが、一人称小説では主人公の人物描写を見かける割合が少ないのは、気のせいではないと思っています。


 一人称では主人公が主観主のために自分の姿が見えない。だから描写しないのでしょうか?


 一人称小説でも、主人公の人物描写は難しくありません。たとえば、朝起きて洗面台の前で顔を洗ったり歯磨きしたりするシーンでなら簡単に描写できます。鏡がない異世界であっても、水面に自分の姿は映ります。


 可愛いとかカッコいいとか言わせにくいなら、ほかの登場人物に言わせれば済むでしょう。


 愚痴じみたことは置いておくとして、次の例文を見てみましょう。


『彼女は美しく、可愛かった。艶がある長い黒髪。瑞々しい素肌に映えるぱっちりとした大きな目。透明感あるピンクの唇がバランス良く配置されたその顔を見ていると、思わず見とれてしまう。身長は低く幼く見えるが、アンバランスなほどに豊かな胸のふくらみが男心をくすぐるのだ。』


 上の例はよくWeb小説で見かけるような人物描写ですが、特徴を羅列しただけで、説明的な描写です。私にはそう見えてしまいます。


 なにがマズいのでしょうか? 


 べつにマズいことなどないのですが、これでは描写された人物が記号にしか見えないのです。記号と割り切ってしまえば気にすることでもないのでしょうけど、私の感情は受け付けてくれません。モブ的存在の描写ならまだいいんですけどね。


 そこで考えます、描写された人物はなにをしているのでしょうか? どんな体勢なのでしょうか? なにを感じているのでしょうか? どう思っているのでしょうか? 主観者は描写された人物を見てどう思ったのでしょうか? 


 そんなことを織り込むように例文を書き換えてみます。


『一目見て胸が高鳴った。グラウンドを走る彼女の長い黒髪が、陽の光を受け、きらめいている。目の前を通りすぎた今でも思いだせる。汗がにじむ瑞々しい肌に映える、ぱっちりとした大きな目が印象的だった。すこし苦しそうだったが、その瞳は輝いていた。一周して彼女が戻ってくる。さっきよりも幾分息遣いが荒くなったようだ。透明感あるピンクの唇から吐きだされる息が、ハッ、ハッ、とリズムよく聞こえてきた。また目の前を通りすぎる。走りに合わせて上下に揺れる胸のふくらみが、赤い体操服の上からでもはっきりと分かった。身長は低く幼くも見えるが、そのアンバランスさが男心をくすぐるのだ。』


 人物描写としては、すこしあっさりしているかもしれません。でも、らしい描写にはなっていると思います。人物描写に動きや感情、情景などを加えると、そのときのシーンや描写されるキャラが印象付けられ、より感情移入できるような気がしています。


 また、一度に固めて全てを描写するのではなく、場面ごとに分けたりして小出しにしていくほうが、その人物の特徴を覚えやすいと思います。一気に全ての特徴を描写されても、情報が多すぎて覚えきれないかもしれないですからね。


 今回はココまでです。

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