一夜の夢物語

弐ノ舞

始まり

「乾杯!」


オレたちはチープなお酒をキンキンに冷えたコップに入れて杯を交わした。お酒を飲みほして周りに目をやるとほとんど荷物がない。

素っ気なく色のない部屋で、淡いパステルカラーで彩られるのは、オレたちが飲んでいるお酒くらいなものなんだと改めて思う。

オレたちが今一緒に飲んでいるのは、生田舞花の部屋だ。舞花は一ヵ月後結婚式を挙げることになり、新しく旦那になる人と同棲をするため、この部屋を引き払うことになっていた。

その引越しの手伝いを頼まれたオレはすることが特になかったため、二つ返事で承諾。ありふれた一日を返上して、彼女の手伝いをすることになった。

片付けといっても舞花は荷物が多いほうではなかったため、すんなり片付けが進んでいった。だから、腕や腰に鉛のような気だるさや疲労は感じない。

オレと彼女は思っていたよりもスムーズに部屋を片付けることができたためか、普段より酒が進んでいった。だんだん口が滑らかになっていくのが分かる。そのせいか、一番最初に聞いておきたかったことが自然と口から出た。


「なんで、オレに引っ越しの手伝いを頼んだの?」


舞花は初めに驚いたような顔をしていたが、男受けしそうな安っぽい笑みを浮かべた。その顔を嫌というほど見てきたオレには、何も感じない。


「前に手伝ったからそのお返しをしてもらおうと思って」


「なるほど」


オレはぽんっと景気よく手を打った。

それは昔オレが大学を卒業して、部屋を引き払う時に荷造りの手伝いを仲が良かった舞花に頼んだ。たぶんそのことを言っているのだ。

不器用だったオレはちまちました作業が苦手だったため、手先が器用な舞花に手伝ってもらえて大変助かった思い出がある。ちなみにオレの手先はいまだに不器用だ。

その時はその時でお礼はしたはずだがまあいい。結婚するというめでたい昔の友達が頼みごとをしてくるのだ、断るというのもおかしな話だろう。

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