死神と私

@youmusuki

死神と私

朝起きると枕元にソイツはいた。

喪服のように黒いスーツ、オールバック、狐のように細い目は少し優しげ。そして透けているように薄い存在感のソイツに私は何故か冷静に話しかけた。


「あなただれ?」


「おはようございます、ミサキ様。

私は死神でございます。本日は2つのお知らせを持ってまいりました。」


「えっ??」


さっきまでの冷静さはどこかに吹き飛んだ。

死神?2つのお知らせ?

そんな私を見て自称死神が話を続ける。


「恐らくミサキ様の混乱は暫く収まらないでしょうから、先にお伝えさせて頂きますね。1つ目、ミサキ様の寿命はあと1ヶ月です。2つ目、ミサキ様は天上の新制度、[アンダー20救済制度]の最初の対象者に選ばれました。この制度は来年1月1日以降に亡くなられる20歳以下の方々を対象としたもので、若くして亡くなられる方々の不幸を少しでも良くするため亡くなる前に1つ何でも願いを叶えるというものです。

ミサキ様、何か願いごとがございましたら何でもお申し付けください。」


死神の話が終わって少しだけ落ち着いた私は話の内容について考える。突拍子もない話なのに何故か信じてしまえる。これも死神の力なのだろうか。

寿命が1ヶ月以内なのはいい、どうせこの世には疲れ切っていたのだから。問題は願いごとだ。何でも叶うのだったらやりたいことは山ほどある。

でもその答えはすぐに出た。


「私、幸せになって死にたい。」


今までの人生、幸せなんてちっとも感じた記憶がない。どうせあと1ヶ月で死ぬなら最後くらい幸せになりたかった。


「了解致しました。また明日の朝伺わせて頂きます。」


そう言うと死神はそのまま存在が薄くなって消えてしまった。

次の朝、目がさめると枕元にはまた死神がいた。そしてその隣に札束の山があった。


「おはようございます、ミサキ様。昨日のお願いを私なりに考えました結果、サツキ様には億万長者になって頂くことにしました。」


うそ、信じられない。本当にこんなことができるなんて。


「このお金、私が自由に使っていいの?」


「もちろんでございます。」


私は早速1番上の札束をとって出かけることにした。多分これ、ドラマで見る100万円の札束だ。

それから1週間は楽しかった。憧れだったブランドの服は全部買って、ハワイにだって行った。

でもその帰りふと思ってしまった。私はこのまま1人で死んでしまうのかと。そう思うとだめだった何も楽しめない。このままじゃ幸せな最後なんて迎えられそうにない。

次の日の朝、枕元にはまた死神がいた。


「おはようございます、ミサキ様。

最近のミサキ様はあまり幸せそうに見えないのですが、私の贈り物はお気に召さなかったでしょうか?」


「違うの。とても楽しめたんだけど、このまま1人で死んじゃうのかと思うと寂しくなっちゃって。」


「なるほど分かりました。私にお任せ下さい。」


そう言うと死神はまた消えてしまった。

翌日、枕元には死神と素敵な男の子がいた。とても驚いた顔してる。


「おはようございます、ミサキ様。

私1日がかりで、ミサキ様と気の合いそうなお方を見つけて参りました。どうぞお2人でお楽しみ下さい。」


そう言って消える死神と残された私たち、気まずい。すると男の子が話し出した。


「えーと、君はミサキさん?

僕の名前はリョウタ。ちょっと状況が分からないんだけど、あとで現状の把握をさせてくれないかい?」


そう言うとリョウタは家の外に出て行ってしまった。そして気付いたけれど私は寝起きのすっぴんだった。凄く恥ずかしい。リョウタ君は気を遣ってくれたみたい。

それから私たちは近所の喫茶店で話をした。流石に死神とか私の寿命とかいうことは話せなくて、自称魔法使いがやったということにした。これも無理があったけど。

その後私たちはお互いのことを話し合った。好きな音楽、映画、趣味。面白いほど気の合った私たちはそれから何度か会ってお付き合いをすることになった。

2人で色々な場所に行った。素敵なカフェやディズニーランド、箱根に温泉旅行にも行った。

そして迎えたクリスマス。リョウタの車でドライブデートに行った後は素敵なフレンチのレストラン、帰りはイルミネーションの中を2人で手を繋いで歩く。絵に描いたような理想のクリスマス。幸せすぎる。

でも、そんな時に思い出してしまった。私の命は後1週間しかない。そう思うとダメだった。

リョウタにあと1週間しか会えないのがつらい、リョウタを悲しませるのがつらい。そう考えるとあんなに好きだったリョウタに会うのさえつらくなってきた。

もう余命が少ししか残っていない私に恋はできそうもない。

私が1人で泣いているといつのまにか側には死神が立っていた。


「おはようございます、ミサキ様。

今日が最後の日になります。ここ数日苦しんでるミサキ様を見ながら何かできることは考えていたのですが、何も思いつきませんでした。力及ばず申し訳ありません。せめて今日だけでもいい日を過ごせますよう何でもお手伝いしたいと思います。何か私にできることはありませんか?」


気付かないうちに最後の日がきた。どうやら私はここ数日ずっと泣いていたらしい。でももうどうしようもない。やっぱり私は1人で死んでいくんだ。

そこでふと気になることがあった。


「ねぇ、私って死んだ後どうなるの?」


「ミサキ様の魂は次の行き先が決まるまで、私が責任を持って管理させて頂きます。」


なあんだそれなら簡単だ。


「じゃあさ、私が死んだ後私の魂はずっと死神の側にいさせてよ。それがあなたが叶えられなかった私の願いのかわり。」


「えぇ〜!!」


死神が驚いている。凄く面白い。だって死神以上に私のこと考えてくれる人なんていなさそうなんだもん。


「わ、分かりました。」


死神が真面目な声になって言う。


「魂は非常に不安定で私の力でもミサキ様にいつまでも側にいて頂くことは難しく、ミサキ様には私、死神の助手になってもらいます。それでもよろしいですか?」


「うん!」


こうして私は死神の助手になった。







ところで最初からこんな結末でこの制度は本当に大丈夫なんだろうか?

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