My sweet home~恋のカタチ。6--peach blossom--

森野日菜

第1話 衝突(1)

「もー、いい加減に決めろよ~~。 ハラ減った。 おれ、」


八神はイラつきながら言った。


「ねー、どっちがいいかなァ。 これもカワイイし、こっちも!」


美咲はベビー服を手に取って、悩んでいた。


「どっちでもよくね? おんなじような感じだし、」


「もう! 少しは慎吾も考えてよ~~。」


美咲は膨れた。




美咲は妊娠9ヶ月目を迎えた。


大きなおなかを抱えて、今日は八神の休日だったので赤ちゃん用品を買い物に来て、帰りは産婦人科の両親学級に出ることになっていた。



「でもさ・・こんな女の子モンばっかでいいの?」


八神は美咲が買い物をしたものを覗きこみながら言う。


「え、だって。 先生が女の子だって言ったもん、」


「志藤さんが言ってたけどさあ、男って言われたらほぼ間違いないらしいんだけど、女って言われると間違いがあるらしいよ。」


「え? なんで?」


「だってさ。 ついてるもんがその時に限って見えなかったりしたらわかんねえじゃん、」


「でもっ! 絶対に女の子だよっ。 あたしも女の子がいいなあって思うし。 ちょっと大きくなったらさあ、おそろいの服とか着たりして。 大きくなっても一緒に買い物も行けるし!」


美咲は夢見るように言った。



子供は


好きだけど。


なんかまだ


ぜんっぜん実感沸かないんだよな~~。



八神は暢気だった。



美咲は初産であったが、里帰りはせずにこっちで赤ちゃんを産んで、しばらく母親に来てもらって世話をしてもらうことになっていた。


買い物の後、病院の両親学級に参加したが


「で・・陣痛ってどーゆー感じなんですか? それってわかるもんなんですか?」


「だいたい10分おきくらいの感覚で痛みが来たら、陣痛ですから。」


「いきなり痛いんですか?」


「人それぞれですけど。 陣痛と共に『おしるし』もあるかもしれませんから、落ち着いて病院に連絡を下さい。」


「それでっ。 やっぱり・・産む時って・・すんごく痛いんでしょうか??」



美咲はひとり質問攻めで


八神は恥ずかしくなってきた。



「痛いですけど。 赤ちゃんも頑張ってるんですから。 大丈夫、その痛みがまた赤ちゃんの元気な顔を見た時に感激が増すってもんです、」


先生は笑顔で答えてくれた。



帰り道。


はしゃいでいた美咲はいきなり無口になった。


そして、八神の手をぎゅっとつないできた。


「・・なに?」


「なんっか・・・怖いってゆーか、」


「は?」


「友達に聞いたら。 もう・・この世の痛みじゃないって言うし。 考えただけでドキドキする・・」



怖がりの美咲は


もう陣痛の心配をしていた。


「まあ・・痛いんだろうなあ・・」


適当な答えをすると、ムッとしたように


「もう! 慎吾は産むわけじゃないからいいよねっ! あ~~~、もう、ほんっと男って気持ちいいことするだけで、苦しむのは女なんて・・なんて不公平なのっ!?」


彼をにらみつけた。


「おまえ~~。 こんなトコでそんなこと絶叫すんなよ・・」


八神は思わず彼女の口を押さえてしまった。


「だって、そうじゃん・・。 ああ、なんっかムカつく、」


美咲は八神の手をぎゅっと抓った。


「いてっ!! なんだよ、も~~~。」



このところの美咲は


感情の浮き沈みがさらに激しくなり


テレビドラマを見て


異常だろってくらい大泣きしたり。


今まで笑っていたと思ったら


いきなり怒り出したり。


出産が近づくとイライラするもんなんだって


志藤さんは笑ってたけど。



こっちも


何だか怖いよ。



八神は少々ビビっていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る