それでもソシャゲを止めなかった男

木沢 真流

プロローグ

「リアナ、またここに来てたのか」


 リアナがはっとして振り返ると、ふわりとツインテールの黒髪が揺れた。向日葵ひまわりの髪飾りが黄色く光る。

 声の主が期待した人物でない事が分かると、リアナはあからさまにがっかりした表情を見せた。そして小麦畑に視線を戻す。もう日は落ち始め、インクの様な赤い夕日が刈り取りを待つ小麦達を照らしていた。


「まだ信じてるのか? 異世界から来た勇者のこと」


 男はリアナの横に腰を下ろした。


「確かにこの国を救ってくれたすごいやつだよ。でもよ、課金カキンもしたくないっていうケチな野郎だろ? そろそろあいつのことは忘れて、俺との結婚考えてくれないかな。悪いようにはしないぜ」


 リアナは切れ長の黒い瞳で、揺れる小麦を見つめた。


 彼はきっと来る。


 リアナは向日葵の髪飾りの感触を確かめた。


 だって約束したんだから——。


 わかってる。

 きっとタクヤはもうここには来ないってこと。

 あれからもう3年が経つ。

 それでも毎日リアナはここに来ていた、そして思い出していた。タクヤと初めて会ったこの思い出の場所で、泥だらけになって一緒に小麦を収穫したあの日のことを。


 でも——。


 その時だった。

 小麦畑の奥が何やらごそごそと動いているのが見えた。

 黒のツインテールを揺らすその風は、ちょうどあの日と同じ優しい匂いがした。 

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