第21話 僕と幼馴染と願いの結晶 最終章
〖本当に好きな人―15―〗
よし。
これが、きっと天咲さんとの記憶を取り戻す近道だろう。
というか、これが駄目なら打つ手が無くなってしまう。
僕は、これに賭ける……………!
いつも通り教室に入ったが、向かうのは自分の席では無い。天咲夢乃の席だ。
「…………天咲さん」
「……………っ。どうしたの、柊太?玲葉のお見舞いなら、今日は…………」
「いや、その件じゃないんだ」
「…………?なら……私に何の用なの?」
呼吸を落ち着かせる。
きっと、初めてじゃない。
恐らく…………二度目になる。
勇気を振り絞り、僕はそれを発した。
「明日……………僕と、デートして下さい!!」
「――――――――――――へ?」
〖本当に好きな人―16―〗
――夢乃の部屋にて――
「し、柊太と、またデート!?」
嬉しい…………すっごく嬉しい!!
けど……………………。
柊太は覚えていないんだよね………私とのデート。
少し、胸に針の様なものが刺さる感覚がした。
柊太の記憶から、私だけ消えたのも神様の悪戯。
悪戯にしても………度を越してるよ……あんまりだよ………。
ううん。
今は、明日着ていく服を考えなきゃ…………!
柊太の好み、全く分からない…………。
というか………………。
柊太が忘れてるだけで、私と柊太はカップルのままだよね?
だって……………別れて、ないよね?
それに、柊太が誘ってくれたんだもん。
他の女性が眼中にいるなんて………ないよね?
でも、どんな人が来ても………………。
私が柊太を一番好きってことは、変わらない!!
柊太には、私との記憶、思い出して欲しいな……。
――デート 01――
ふぅ……………、早く着きすぎたな………。待ち合わせは、とある遊園地。自然に囲まれたいい場所だ。
後、30分も待ち合わせ時間まであるな…………。
すると、向こうから天咲さんが走ってきた。
「ご、ごめん柊太!!………あれ?私遅刻した?」
「………い、いや。僕が早く来すぎただけだ……」
「…………ん?どうしたの、柊太?顔、赤いし……………こっち見ないし……」
「いや、その……………」
反則だ。
駄目だ。可愛いすぎる。見ると、死ぬ。
「……………天咲さんが、可愛いすぎるから……」
言ってしまった…………完全に引かれるやつだよ。
それでも、天咲さんはクスッと笑って。
そして、言った。
「私も、早く来ちゃった。柊太と、たくさん過ごしたくて」
……………っ!
僕と……たくさん過ごしたいって………それって?
「…………でも、柊太の方が、私とたくさん過ごしたかったんだぁ………。嬉しいなっ」
「……………たまたま、だよ」
まぁ、本当の事言うとそうなんだけど。
「……………それとさ、天咲さんじゃなくて、名前で呼んで欲しいな………」
「………名前で、か?」
少々、レベルが高い気がするが…………。
「じゃあ……………夢乃……でいいのか?」
「うんっ!!その方が良いよ!」
慣れないな…………名前で呼ぶってのは。
―デート 02―
ゲートを通り、僕達は遊園地へ入園した。
まずは、どれで遊ぶか……………。
僕が、行き先を決めかねていると夢乃が服の裾を掴んだ。
「柊太、ジェットコースター乗ろ!!」
「おぉ………良いな。でも、いきなりか?」
「ほらほら、早く行こうよっ!!」
「うぉっ!?ちょ、引っ張るなぁ!?」
そして、乗り場に着いた。先客がいないので、すぐに乗る事になる。
シートベルトを締め、安全バーを下ろす。
僕は、隣りをちらと見る。
なんだよ………怖がってるじゃんか。
まったく、無理しやがって………………。
それもまた、可愛いんだけど。
そして、少しずつ上り始めた。
夢乃の手は、震えていて、目を瞑って俯いている。
……………そんなんじゃ、楽しめないぞ。
よし、ここが男ってもんか。
「……………これで、大丈夫か?」
僕は、夢乃の手の甲に手のひらを重ねる。
まぁ、握ってれば怖くないだろ。多分。
「……………っ!柊太…………ありがと………」
「…………………さ、来るぞっ!」
"ゴォォォォォォォォォオ!!!!”
と、物凄い速さでレールを下る。とても、前を見ている事は出来ないが、横は見れる。
夢乃は、笑っていた。
それだけで、ジェットコースターに乗った意味はあったし、それだけで十分だった。
夢乃が笑ってれば、何故か僕の心も満たされる。
これが、幸せなのだろう。
夢乃の事を考えていたら、すぐジェットコースターは終わった。というか、終わっていた。気づかなかったぜ……………。
「柊太っ!楽しかったねっ!!」
そう、この笑顔だ。眩しすぎる程の笑顔を僕に向けてくれる。心の中で、絡みに絡んだ糸が少しずつ解ける感覚がした。
とにかく、夢乃は可愛いすぎる。
――デート Final――
その後にも、色々なのに乗った。
そして、昼食をはさみ。
また、遊び。
夢乃の笑顔が絶えなかった。
こんなにも笑っている夢乃を僕は、見た事がないと思う。
途中からは、お互い意識せずに手まで繋ぎ出した。
無意識のうちにとか、やだ怖い。
そして、今も手を繋いでいる。
まぁ、名物だろう、ここは。
お化け屋敷。
もちろん、子供向けではなく大人向け。
本格的なものだ。
うわぁ………暗い……。
お化けとか、信じなくても普通に怖いぞ、これ。
無駄に、寒くしててリアルだし………。
「……………夢乃、手、離してないか?」
「………うん。握ってるよ。………柊太、怖い?」
ここは、普通なら全然余裕的な事を言う場面だがそんな事言いえるレベルでは、とてもなかった。
「……………あぁ、怖いさ。でも、夢乃の手は絶対に離したくないからな」
「…………柊太、かっこいい。それと、そういうセリフは胸にしまってよ……言われると、恥ずかしいよぉ………」
と、そこで…………。
「………………きゃっ!!」
「…………っ、夢乃!!」
咄嗟に僕は夢乃を抱き寄せた。
「き、急に足を掴まれたような………って……!」
「え?……………ぁ……………」
つい、思わず抱いた為かなり、体が密着していて。
互いの息遣いも聞こえる距離で。
それに、夢乃のいい香りがする……………。
そして、夢乃のそこそこな膨らみも、感じられる。
すっごい、柔らかい………。
「あ、す、すまん!!つ、つい………」
「…………ううん、ありがと!私を守ってくれたんだよね?私が、感謝しなきゃ!!」
そういうものなのか?
まぁ、あの心地良さは、胸に秘めておくか………。
そうこうして、どうにかお化け屋敷からは出る事が出来た。
もう、陽も落ちてきたな…………。
早かった…………。
「もう、帰るか…………暗いし、時間もそろそろだしな…………」
「…………柊太。私、最後にあれ、乗りたい」
あれって?
と、僕は夢乃が指差す方向に視線を移す。
……………あぁ、観覧車か。
そういえば、乗れてなかったな。
「………よし、最後に乗るか」
帰る客と、すれ違いながら僕達は観覧車乗り場に着いた。
なんだか、初めてじゃない気がする。
そんな、感想をこぼし、僕達は乗った。
静かに、上っていく。
もう、喧騒も聞こえない程に上ってきていた。
「……………夢乃、僕は今日すっごく楽しかった」
「………私も、楽しかったよ………あ、あのね!」
「…………うん?」
「何か………………思い出した?」
「残念ながら、全くだよ」
「…………そっか…………ね、柊太。目瞑ってて」
「………ん?なんだ………………?」
「…………………いいから」
「……………りょーかい」
言われるがままに目を瞑る。
こういう時、大抵開きたくなるのだが、今回は違う。開いちゃ、駄目な気がした。
直ぐに、返事が来る。
「………………いいよ。開いて?」
やけに、近くで聴こえたな………………。
そう思い、ゆっくりと目を開いた。
すると、直ぐ近くに夢乃がいた。
目の前に。
お互いの息がかかる距離で。
そして――――――――――――――。
ゆっくりと、唇と唇を重ねた。
柔らかい夢乃の唇が僕の唇に触れる。
瞬間、心の奥底にある絡みついた糸がプツンっと解けていく気がした。
同時に、大量の情報量が脳内に流れ込んでくる。
「…………んっ。はぁ、はぁ…………柊太ぁ……」
僕は、夢乃を今度はしっかりと抱いた。背中に手を回し、しっかりと。
「……………夢乃、僕、全部思い出したよ………」
「…………!!し、柊太、それ、本当に!?」
「…………あぁ、本当に」
あれ?なんか、心が…………、つまるような?
悲しくはない。嬉しい……はずなのに。
「………………夢乃、ごめん。こんな大事な事を忘れていて………僕は、夢乃の彼氏じゃんか」
「…………もう……本当に……っ、私、私……っ。辛かった。寂しかった。何度も、一人で泣いた」
「…………………ごめん」
「柊太は、みんなの事は分かるのに私のだけ記憶を無くして………怖くて、一人になって………誰も、いなくて………私、ずっと一人で頑張ってたんだよ?」
「………………………ごめん」
「一番、大好きな人に、自分だけ忘れられて…っ!
もう、どうにかなりそうだったよっ!苦しくて…もう、どうしたらいいか分からなくて……っ!!」
「………………………ごめん」
「――――――――それでもね――――――」
「―――――――私は、柊太が大好きだったから。柊太を信じていたから―――――――――」
「…………………っ!!、ごめん………………」
「私は――――――柊太が好きだから――――」
「私はあなたの事が世界中で一番、好きです」
「世界中で一番、愛しています――――――――」
途端、心のストッパーが切れた。
涙が流れてきた。
止まらなかった。
止めようとしても、無理だった。
「僕も、ごめん。気づいてやれなくて。思い出せなくて、本当にごめん。
そして―――――――――――――」
「僕も、世界中で一番、夢乃が好きだ―――――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます