第13話 僕と―――――――――

〖二学期の始まりは色あせている―01―〗


いつも通り、家を出て学校に向かう。途中、隣の家をちらと見る。心が痛くなったので、すぐに視線を戻した。なんとも言えない。

ただ、心に大きい穴が空いたような。

そんな、感覚だ。

大切なものを失ったような、そんな……………。

「………僕の今までの記憶は全部夢だったのか?」

いや、そんなことはない。否定してたまるか。

もう、戻ることはないかもしれないけど、それでも……………これまでの、高校生になってから、つい最近までの幸せだった事全部を否定するなんて出来ないし、絶対にしたくないんだ。

だが、現実は違う。

そう願うだけでどうにかなるほど甘くはないのだから。

「……………夢乃っ……!」

ダメだっ……!

これまでの幸せな時間の重みはそう、簡単には忘れられるものでもないし、ひっくり返せるものでもない。

すると、後ろから足早な靴音が聞こえた。

「………おはよ、"影里”」

夢乃だ。

前までのテンションは無く、淡々としている。

何故だろうか、夢乃の瞳から光が失われている気がした。

「……おはよ、夢………いや、天咲」

僕がそう言うと、夢乃は反応もせず歩き去っていった…………。

心残りがないとすれば、それは大嘘だ。



〖二学期の始まりは色あせている―02―〗



「………しゅーく…………影里君」

「なんだ?時坂。いや、別にその呼び方でも構わねぇけど」

「………じゃあ、しゅー君」

「なんだ、用か?」

「しゅー君……あの夏祭りの日から元気、ないから、心配で………」

そうか、そんなに落ち込んで見えるのか、僕。

ったく………ダメだな。

「あぁ、心配かけてすまない。でも、大丈夫だよ。少し、考え事をしていただけだ」

「なら、いいんだけど………。困ったら、私に頼ってね?」

「…………あぁ、そうさせてもらうよ」

本当に挫けそうになった時は時坂に頼ろう。

でも、夢乃の別れ際の言葉……あれは、一体……。



〖二学期の始まりは色あせている―03―〗



下校時刻になった。

今日1日は、世界が白黒だった。これまでにこの世界がつまらないと感じた事があっただろうか。

「…………なんだよ、この胸の焦りはっ!!」

もう、夢乃は恋人でもないんだ。ただの、幼馴染。

………………なら、幼馴染として接するのはどうだろうか?……………いや、考えるまでもない。

そんなの無理に決まっている。

1度壊れた関係を修復するには、それ相応の出来事でもなけりゃ無理だ。

すると……………………目を思わず疑いたくなるような光景が飛び込んできた。

「……そん、な………嘘、だろ………?」

2人の人物が校門を出て、横を通り過ぎた。

一人は、すこしチャラそうなやつ……隣のクラスの三辻といったか…………。

そして、もう1人は………………

「あら――――――――――――――」




「………………え?」





「さようなら―――――――――影里」



その言葉はあの時と全く同じだった。


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