復讐の魔術師 ~奪われた紅玉《彼女》を取り戻すまで~
i-トーマ
プロローグ
魔法王の魔術が、僕の胸の紅玉をえぐり取った。
物理的に胸に拳ほどのえぐれた穴が空くが、紅玉が離れるわずかの間に傷は修復され、ただ、醜い傷痕だけが残った。
「おぉ……素晴らしい……素晴らしい
魔法王の意識が紅玉に向いた時、僕への拘束が緩んだ。
僕は強引にそれから抜け出し、全力で、逃げ出した。
大臣が気づき、声を上げる。
「キサマ、逃げるな!」
大臣が僕のあとを追ってくる。
しかし、基礎体力、身体能力は僕の方が高い。すぐには追いつかれない。
僕は、城に併設された寄宿舎の中を走りながら考えた。
いまだ混乱している。
起こったことが信じられない。
僕は国境での抗争を解決するため、十五歳になると同時に魔法王の任命によって遠征部隊に配属となり、明日の朝には旅立つはずだった。
そのタイミングで、魔法王が僕の命を狙う、なぜ? なぜ?
いや、そんなのわかりきっている。
生まれた時から僕の胸にある……あった……いた、
そのために僕を部隊に引き入れ、そして計画通り、
それだけだ。
僕は自室に駆け込む。
どうすればいい? 何ができる?
助けを呼んで……。いや、何を話そうとも、ここの全ては魔法王の手の内。敵と味方の区別も……。いや、そもそも味方がいるのかどうかすらわからない。
今や何も、誰も信じられない。
逃げなければ。
逃げなければ、口封じに殺される。
僕はまとめていた荷物を掴むと、窓から放り出す。ここは二階だが、荷物に続いて自分も飛び降りる。
着地と同時に転がって受け身をとる。この程度の訓練はしている。焦って肩口を強くぶつけてしまって痛むが、どうって事はない。すぐに治る……そうか、もうすぐには治らないのか。
荷物を掴んで駆け出す。
背後、僕の部屋から、大臣の声が聞こえる。
ヤバい、急がなければ。情報よりも早く、この城の外へ……いや、国の外へ出なければ。
僕は夜陰にまぎれ、走る。全速で。まさに一目散にだ。
走っていると少しずつ精神的に落ち着いてきた。
同時に湧き上がったのは、怒りだ。
僕を騙し、僕の家族や仲間を騙し、そして国民をも騙し、私利私欲のため、僕の一番大切なものを奪った。
いつか必ず、僕は、オレは取り戻す。
生まれた時から一緒だった僕の半身であり、前世の恋人である
必ず……必ずだ。必ず魔法王の手から取り戻し、解放する!
命に、代えても!
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