逃げるんだよーん

 「あっぶな!何考えてんの?あの謎魔人!えぇっと、名前……アモンだっけ?何考えてんのアイツ!」

 背中と左半身に感じる熱、飛び出した時、強い光源の所為で私の足元少し右側の地面にくっきりと映し出される影。

 火山の火口でもない限り有り得ない熱を帯びた台風にも似た強風。

 洞窟からの爆風が吐き出され、辺り一帯を焼き、吹き飛ばす。

 直接見る迄も無い。とんでもないバ火力。タングステンかすのだってもっと低温でじっくりやるっての!

 「お姉ちゃん、イタイ!」

 小脇でテミスちゃんが苦痛に顔を少し歪ませていた。

 「!ゴメン!大丈夫⁉火傷してない?」

 周りの木々が地面に立ったまま木の枝や葉ごと炭化している。と思っていたら直ぐに微風に乗って灰になっっていく。

 そんな熱線のを間接的に喰らったテミスちゃんの体は……良かった。なんてこと無い!

 「火傷って言うか、お姉ちゃんのホールドの方が割とダメージが有ったよ……。」

 あ、いっけね。いきなりの事だったから力加減を間違てた。

 「にしても…………………クエストは微妙に失敗かな?」

 テミスちゃんが拾った魔石は頑張って回収した。

 スライムもあの熱じゃ確実に蒸発してる。倒せた。

 でも……………

 「洞窟のこの状況は本末転倒だよねぇー…………。」

 雑木林が灰になって風と共に去り、じゃぁ洞窟はと言えば…………

 「洞窟………無くなっちゃった。」

 テミスちゃんが洞窟を、洞窟だった場所を見て、茫然としてそう言った。

 今さっき私が駆け抜けた洞窟は今、無くなっていた。

 ドッロドロのマグマ溜まりがそこには在った。

 「洞窟を溶かすって………滅茶苦茶にも程があるでしょ?」

 高熱で洞窟全部を内側から溶かして入り口を消したみたい………ほんと、何考えてんの?

 「お姉ちゃん………それ、何?」

 洞窟だった場所を睨み、その下に居た炎の魔人に思いを馳せていると、私の腕から解放されたテミスちゃんがあるものに指を指した。

 「ブヨォ…………………」

 私の頭の上に居るスライムだった。

 「いやぁ、さっき迄殴り合ってたんだけど、ちょっと色々有って解り合って、で、逃げる時に拾って来ちゃった。」

 「プヨッ。」

 舌を出す私の頭の上でスライムが連動して動いた。

 『また今度、勝負しましょ。』とか言っておいてむざむざ蒸発させる訳にはいかないでしょ。

 という訳で、洞窟の脱出途中でテミスちゃん、魔石の入った袋、スライムを回収。全力で脱出して来た訳。



 「ちょ………アンタら!大丈夫⁉」

 灰になった雑木林の向こう側から、赤い軽装の鎧を着た女の人が血相を変えて走って来た。

 ここは首都。そんな場所の郊外で火柱が上がったら流石に目を引くか………。

 一応私達はお尋ね者ポジだからなぁ…厄介な事になりそう………。

 「よし、たった一つの冴えたやり方を実践しよう!」

 「たった一つの冴えたやり方?」

 「プヨォ?」

 二人が首を傾げる。

 そう、たった一つの冴えたやり方とは…………

 「逃げるんだよーん!」

 全力疾走。

 わずかに残った灰の木を疾走の余波で消し飛ばしながら女の人の目線を逃れた。




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