デリードの工房にて
「お邪魔します。」
「お邪魔します!」
「あ~。そこら辺で適当に待っときな~。すぐ終わるから。」
老人、デリードさんの工房に連れられて行った私達は伝説の職人の工房で待たされた。
剣、斧、盾、鎧、ガントレット………………どれもこれも見た事無い金属ばかりだけど、確実に解ることが有る。
「どれもこれも特級品。あっちのおじさん達の言う事………マジだった。」
テミスちゃんの鎧を色々見せて貰った。あれも凄かったのは確か。でも、その凄い逸品揃いと比べて次元が違うモノだってことが解る。
「あぁ~触ろうが壊す気でぶん殴ろうが構わんが、怪我するから、不用意に触らん方が良いぞ~。」
覇気の無い声だけど、そこには揺らぎ無い何かが有る。
デリードさんは工房の奥に消えて行った。
「解りました。」
そう言いながらも見る事は止めない私。
「はい……。」
ちょこんと座りながらテミスちゃんが同意した。
「出来たぞ~。」
そう言って奥から出て来たデリードさんの手には、あの赤いポンチョがあった。
「嬢ちゃん、テミスちゃんって言ったかな~?着て見せておくれ~。」
テミスちゃんに渡されたポンチョには、さっきと何も変わりがないように見えた。
「如何?何かさっきと変わりが有る?」
「ん!………さっきより動きやすい。」
その場でそれを今着ている物の上から着ると、少し興奮気味でその場でクルクルと回って駆け回る。
動きにぎこちなさや不自然さが微塵も無い。
「ゴチャゴチャした格好は邪魔に成るだけだ~。これくらい簡単に着られて、直ぐに身を守れるようじゃ無きゃ、そりゃ~………防具とはいわんじゃろ~。」
確かに。
鎧は何時でも着ている物じゃない。
急襲にも対応するには、秒で着られるようなものにするか、でなきゃ、鎧を寝る時も着ているか。のどっちか。
「嬢ちゃんのその妙な服は……必要無いな~。」
流石プロ。この服の正体に気付いてる。
「ちっちゃい嬢ちゃんの為にと思うなら、嬢ちゃんも少し考えた方が良いぞ~。」
「…ごめんなさい、気を付けます。
テミスちゃんも、ゴメンね。」
「ううん、大丈夫!」
楽しそうにクルクルしながらポンチョをヒラヒラと広げる。
「気に入ってくれたかの~?」
「うん、有難う。おじいちゃん。」
目をキラキラさせるテミスちゃん、慈愛の目を向けるデリードさん。
「よし!気に入ってくれた様じゃし、それは持ってけ~。嬢ちゃんにやる。
あぁ、お代は要らん。」
⁉⁉⁉
アレ?職人さん’s曰く、アレ、トンでも素材で出来た超絶技巧職人の名品じゃ無いの?
「要らんからな~。」
私が驚いた眼をしていたのに気付いてデリードさんが先手を打った。
「どうせ、子ども用。孫に渡そうとも思ったが、もう遅い。
道具は使う為に生まれたもの、使われずにこのまま朽ちるより、こうやって幸せに繋がる方が幸せというもの。」
口調が少し真剣さを帯び、悲しそうな眼をしてデリードさんは遠くを見た。
ここで断るのは……………逆にダメだよね。
「有り難う御座います。
デリードさん、この御礼は何時か。」
「良いんじゃよ~。老い先短いんじゃ~。礼なんぞ気にせず、ただ生きていてくれれば良い。
テミスちゃんを、守ってあげるんじゃぞ~。」
「おじいちゃん、ありがとうね。大事にする。」
ポンチョをヒラヒラしながらぺこりとお礼をする。
「お~。大事にしてくれるか~。有り難うの~。壊れる事は無いじゃろうが、もし何か有れば、遠慮無く儂に言うんじゃぞ~。」
ヒラヒラと手を振りながらデリードさんは工房の奥に消えて行った。
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