現代には『復旧』という魔法が有るし、伏線も有る!
イライライライライラ!
首が痛い中、スープを掻き回す。
塩加減は最良、胡椒が素材の香りを殺す事無く、野菜の旨味は互いを讃え合い、高め合い、最高の出来だ。
正直、これを飲ませる事が出来れば王城の調理人もぶっ飛ぶと自信を持てる。まぁ、飲もうとする訳が無いし、あんな連中に飲ませるなら地面にぶちまけた方がマシだが。
折角娘が無事帰って来たんだ。怒りは抑えろ。スープの味に障りかねない。それはダメだ。
愛娘が姿を消して一週間。悲しみに暮れ、馬鹿な真似をしそうになる自分を必死に律し、味が解らなくなった料理を口に運び、待ち続けていた。
色んな連中に当たり散らし、一度は頭を天井に減り込まされた。
荒んでいた。
それが今日の午後、ひょっこり帰って来た!
それ迄世界が、点も線も無く、見えていたかも解らない状態だったのが、いきなり色を取り戻した。生き返った。
今日は娘の大好きなスープを振る舞うと決めた。
だと言うのに、招かれざる客が来るわ投げられるわで今日は娘の事以外厄日だ。
まぁ、それも娘の無事な帰還の対価だと思えば安過ぎるというものだ。
「ただいまぁ!お父さん、お客さんを連れて来たよー!」
宿の入り口から娘の天使の如き、天使の声が響き渡る。
「おぉー、お帰り。
お客さんだって?今行くぞぉ―。」
スープの火を止め、接客用の顔に切り替える。
「いらっしゃいませー。宿屋サバオリにようこ 」
別に作者のタイプミスじゃない。言葉を失っただけだ。
世界一愛らしい愛娘が太陽より眩しい笑顔をこちらに向けるその後ろ、その後ろにはギルドで俺を投げ飛ばし、さっき追い出したあの娘が居た。
「お、お、お、お、お、お、お、おおおおおおおおおおおおお前ぇぇぇぇぇぇぇぇ!
ウチの娘に何をシたぁぁァぁぁァ!」
「全く、嬢ちゃん!
娘を助けた恩人ならそう言ってくれれば歓迎したのに。何故言ってくれなかったぁ?」
おじさんの表情が怖い。
さっき迄怒髪天だったのに今やデレデレで締まりの無い顔をしている。
「お父さん!何でウチを追い出したの⁉」
娘、つまり私がさっきゴロツキハントをする直前に声を掛けてくれた女の子がおじさんに説教する。
「いや、その…………。」
「ギルドでこの人達に迷惑かけて返り討ちにされて腹いせに女の子二人を夜の街に追い出そうとするなんて信じられない!」
「ゴメンナサイ。」
おじさんが小さくなる。
ここに来るまでの経緯を説明するね。
さっきゴロツキハントをしようとして声を掛けられたトコから回想開始
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「お姉ちゃん。さっきお城から逃がしてくれたお姉ちゃんだよね?」
その言葉からさっき私が王城から逃がした女の子だとは直ぐに分かった。
でも、何で?私はちゃんと変装していた筈なのに…………。
「お姉ちゃん、目とか歩き方とかで直ぐ解ったよ。
そっちの女の子も、一緒に捕まってた子でしょ?」
そう言ってテミスちゃんをのぞき込む。
「お姉ちゃん達、もしかして、今日泊まる家……無い…よね?
ここに来たばっかりだし。」
私の正体を知っているその子は直ぐに状況を察してくれた。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん?
もし泊まるトコが無くて困ってるなら、良かったらウチに来ない?ウチの家、宿屋をやってるんだけど………。」
「良いの?」
「勿論。お父さん、きっと大喜びしてもてなしてくれるよ。
今日は特性スープを作るって言ってたし。」
「じゃぁ………お言葉に甘えて良い?」
そう言って提案してくれた女の子の提案に乗る事にした。
この時、宿屋とスープの辺りで察するべきだったのかもだけど、その時は知らなかった。
気付いたのはさっき見た宿屋を見てからだった。
「ただいまぁ!お父さん、お客さんを連れて来たよー!」
「おぉー、お帰り。
お客さんだって?今行くぞぉ―。」
逃げる訳にはいかなかった。
宿の奥からおじさんが緩み切った顔で登場したと思ったら私の顔を見て豹変した。
「お、お、お、お、お、お、お、おおおおおおおおおおおおお前ぇぇぇぇぇぇぇぇ!
ウチの娘に何をシたぁぁァぁぁァ!」
という訳で、おじさんがキレた所で女の子、セリアちゃんがおじさんを止めて事情を説明して、今に至る。
回想終わり
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「本当に、有難うな。娘を助けてくれた礼だ。リエさんの書状関係無しに泊まってけ!」
おじさん、凄く嬉しそう。
日中は娘が居なくなっていて、で、そんな子が無謀な事をしてる様に見えたからあんな態度をとってたんだな……………。
良いおじさん、良いお父さんだ。
「ただいま!帰ったわよ!」
「あ、お母さん!」
「おぉ、お帰り!」
父娘が声を掛ける。そこには大柄な女の人。
「あと、そこでお客さんを拾ったんだけど……」
大柄な女の人、セリアちゃんのお母さんの背中から出て来たのは…
「ギランさん!八坂さんごめんなさい!
ギランさん、その方は今日行く当てが無くって紹介しただけなんです悪気は有りませんでしたごめんなさい!
八坂さんテミスちゃん無事ですか?今日は私の家に泊まって…………………アレ?」
背中から出て来たのは慌てふためいた受付嬢のリエさんだった。
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