冒険者 八坂八華

 空いていた受付のお姉さん近寄ると、若干ひきつった顔だった。

 肩まで伸びた綺麗なブロンドに、栗色の目。私の世界でも結構な美人なのに…ひきつってるの勿体ない。

 「ようこそ……こちらは王都冒険者ギルド東地区支部です。

 冒険者登録………でしたよね?」

 話が伝わってて助かった。

 「えぇ、あの、冒険者には誰でも成れるものですか?」

 「えぇ、まぁ……。

 オークやドラゴンであっても、ルールさえ守って頂ければ成れますよ……。」

 何だろう?悪意をひしひし感じるのは私の気のせいかな?まぁいっか。

 「発行をお願いします。」

 「では名前をお願いします。」

 「では、八坂八華で。」

 「ヤサカ様ですね。了解しました。では、カードの発行に少し時間が掛かりますので、その間に最低限のルールを御説明いたします。」

 「ルールっていうのは?」

 「はい。先ずは冒険者に成って仕事を受ける際はこれから発行する冒険者登録証明証書。通称『冒険者カード』を携帯して下さい。

 これがあなたの身分証明書に成り、依頼報酬の受け取りの際の受取書代わりにもになります。大事にして下さい。」

 これは生徒手帳と一緒ね。

 「次に、複数依頼を受ける事は可能ですが、受注後指定日数以内に依頼の遂行が成されなかった場合、幾つかの例外を除いて『依頼の破棄』とみなします。」

 ゲームとかだと何日やんなくても困らないけど、実際に受けるって言ってやらなかったら意地悪な人が依頼を止めて迷惑を掛けるからかな?

 「そして、命の危険や急を要さない場合、依頼の横取りや妨害は固く禁じ、これが成された場合、冒険者カードを剥奪します。」

 荒らしNGは何処も一緒ね。

 道場荒らしや破りはやった事有るけど…流石に他は無いな。

 「あ。出来たみたいです。」

 そう言って茶色の金属製のカードを渡す。

 「これで、八坂八華さん、あなたは晴れて冒険者です。」

 よく解らないけど、多分私のなんでしょう!読めないけど!

 あ、異世界語だから解らないだけで、普通に日本語やフランス語や英語くらいなら出来るからね!

 「あぁ。最後に、一番大事な事を。」

 急に受付のお姉さんが真剣な目をした。

 「なんですか?」

 「冒険者は危険な仕事です。

 それを覚悟して、そして、決して死なないで下さい。」

 あぁ、成程ね。

 「OK。死なない事。それは私、一番得意なんだ。」

 カードを振りながら私は受付を後にした。

 『死と隣り合わせ』つまり、『死と隣り合わせありふれ過ぎた日常』ってことね。

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