海と凪

佐竹六花

海と凪

「綺麗だね。海も夕日も。」


「うん。この岬は、景色がすごく綺麗。」


「………夕日みると、渚を思い出す。」


「…晴はやっぱり渚なの。」


「別に、そんなんじゃないけど。

 …もう、居ないし。」


「本当にそうかな。

 私がそうって言ったら、信じないんだろうけど、」


「…やっぱり、渚…?」


「フフっ、

 此の海に晴君を連れてくるのは私しかいないでしょ。」


「………。」


「そんな驚いた顔しないでよ。

 折角、茜ちゃんの身体借りられたんだから、

 夕日見ながらゆっくりはなそう。」


「………待ってた、渚。」


「…私も…晴君…。あなたに会って話がしたかった。

 死んでから、こんなに寂しいと思わなかったから。」


「……ずっと、渚なの?」


「一時的なものだよ。少しだけ。」


「ここで、会ったんだよな、俺達。」


「…はじめはね。幼稚園の年少さんの時だね。

 もう、14年経つね。」


「ながっ。14年も俺ら三人一緒だったんだ。」


「今思うとね。」


「ここにいるのは、いつも二人ってわけじゃなかったよね。」


「あぁ、稀に茜が一緒にいたな。」


「初めて茜ちゃんがここに来たのは、

 小学生の時。」


「楽しかった。海眺めるだけでも。」


「そう、その時は楽しかった。」


「でも、小学生最後の夏、茜が海に落ちそうになった。」


「…そうね。それから、茜ちゃんはここには来なくなった。」


「俺達だけだ。それからずっと6年間。」


「そう、私達だけ。…渚と晴…だけ。」


「また、会えて良かった。

 急にいなくなって、俺は困った。」


「茜ちゃんがいても?」


「そう。渚がいなくちゃ、俺の人生は始まらない。」


「…そういってくれる人がいたのに、渚は死んだ。」


「事故だ。渚のせいじゃない。」


「そう、事故。」


「…。」


「ねぇ、事故ってなんだろね?」


「何が可笑しいんだよ…予期せず起こった不幸な事実だろ。」


「じゃあ、事故だなぁ。」


「………。」


「渚は死のうなんて思ってなかった。すごく抵抗した。

 でも、死んだ。それは、事故だから。」


「…そう。」


「死んだ日。

 最後まで友達といられた渚は幸せだったと思える?」


「予期せぬことなのに、最後に友達に会えたら、俺は幸せだ。」


「その人に殺されても、ね。」


「………。」


「茜にとっても、予期しないことだった。」


「…ぇ」


「私が晴を好きになることは、

 私にとって事故だった。」


「………そんなの関係ない。」


「私は関係ない。

 晴は渚しか好きじゃない。」


「…でも、渚は居ないだろ。」


「居ないのに、晴は渚しか見られない。」


「…」


「…なら、渚といればいい。」


「っ!やめろ!!」




 


「………」






「今日のニュースです。

 とある街の岬下から、地元の高校生と見られる他殺体が発見さ れました。死亡時刻は一週間前の16時頃と見られており、現在 捜査が続けられています…」

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海と凪 佐竹六花 @hotaru0106

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