第2話 【洋画 アイ トーニャ】夢破れたワナビー達が回す世界

久しぶりに見たアメリカ映画がこちら。

それなりの年齢の方なら、TVニュースで流れた「審査員席にかぶり付いて、泣く泣く無罪を訴えるスケーター」と言う、ある意味前代未聞の衝撃映像を覚えていらっしゃる方も多いでしょう。


若い頃からのスケオタである筆者も、映像が流れる度に、何だか見てはいけないものを見てしまった気になったものです。

事実あれ以降、あんなに好きだったフィギュアスケートを全く見なくなりました。


そんな記憶もあり、少し彼女の弁明があるなら知りたいと言う理由で視聴。


結論から言うと、まあこんな物だよな、と言う感じ。

彼女は事件への関与を否定しており、親子間の不和や業界からのバッシングに耐え、苦労したトーニャのビクトリーロードの説明が、映画ではメインになっておりました。


── ただ。

ストーリーの中で、一番のフックになった。

つまり、つい最後まで見てしまった要因は、やはり強烈なステージママ。

母親との確執を描いたことでしょう。


お漏らしするまで練習中トイレを我慢させ、友達と話すと「話すんじゃない。そいつは敵だよ!」と怒鳴る。

娘のデートにまで付いて来る。

試合になれば、わざわざお金を使い、怒りで奮起させようと、男を雇って暴言を吐かせる。


大人になった娘が

「ママ、私を愛してないの?」と聞くと

「お前の夢を叶える為に、私はもう何年も安い給料で仕事を頑張って来たんだよ。

私には、お前が羨ましいね。

アンタみたいに成りたかった」

と言う趣旨の発言をするのですが。


これは私には、既視感を覚える一言でした。


私は若い頃、商業デザイナー(折り込みチラシや、キャンペーンポスターをデザインする仕事です)をメインに。

デザインにイラストが絡む仕事は、ほぼ全て一人で引き受けていた事があります。


大きな事務所でなければ、クライアント企業との打ち合わせは、デザイナーやイラストレーターが直接会ってする事が多いのですが。


何故か絵を描く仕事と言うのは、世間的には「仕事ではなく、単なる遊び半分」

「小学生くらいの女の子がやること」

「てか好きなことだけする仕事で、人並みの生活出来るなんて世の中舐めている」

「世間知らずなくせに、やたらプライドとこだわりだけ強く、鼻持ちならない芸術家」

と言うイメージが強いようで。


まあ別によくある偏見なので、腹も立たず、好きなようにイメージしとけば?

と思っているのですが。


困るのは「こんな幼稚なヤツには、オレが世間の厳しさを教えてやらねば」とばかりに、めちゃくちゃな無茶振りや失礼な態度をとり続ける人ですね。


漫画「夫の扶養から抜け出したい」でも出て来る、無理解な夫さんがこのケースだったのではと思います。


殆どの場合、彼らの頭の中では「クリエイターは成るのに苦労しても、夢のような仕事」であり「人から注目されファンからリスペクトされる、気持ちがいい仕事」であり。


有名人になりたい、自分を認めて欲しいワナビーにとって、数少ない実現可能な選択肢の一つ。


一言で言えば、ワナビーにとってプロは「勝ち組」なんです。

なので自分が認めない人が勝ち組に上がり、自分はうだつが上がらない社会人として歯車になって、日々埋没して働くのが許せない。


自分が感じている劣等感や、自信喪失感と同等以上に相手が感じないとフェアではない。

夢破れたワナビーや、認めて欲しいのに何をしたら良いのか分からない。

そんな人にとって、現行のクリエイターやアーティストは、ひどくていのいいサンドバッグになる。

屈辱と自信喪失にまみれうなだれた、相手の顔を見れば何とか自分を保てる。


でもね。

実力のあるクリエイターって、みんな書きたいから書くし描くんですよね。

書いてる内に、気づいたら周りに共感する人が増えていく。

自己実現のツールじゃないんだよね。

有名人になるためのツールじゃないんだ。

そこがワナビーとの違い。


東京ゲゲゲイが中国公演の際、お金が無くてメンバー全員が渡航出来なかったと言う記事が最近ありました。

Kポップのメンバーが脱退した際、給料面で不正が行われていたと言う記事に「有名にさせて貰ったのに、中国人はカネの事しか頭に無いんだな」と言うコメが飛び交いましたね。

女性フィギュアスケート選手が出産し、父親を明かさなかった件では「応援してくれる人ありきの有名人が、プライベートを隠すなんて調子に乗っている」と批判されてます。


どれも一般企業の社会人だったら、裁判ざたになっても不思議はない、ひどい扱いですよね。有名人だって、一人の人間なのに。

でもクリエイターやアーティストなら、そんなのもアリで当たり前と言う時点で。


何だか、クリエイター達の世界は、クリエイターの価値を貶めるワナビー達が回している。そんな気がするのです。


スケート界を追われたトーニャが、ボクシングプロになったり、映画で過去を公表したり。

何だか彼女の人生自体。

何にもなれなかったワナビーである母親の「有名人は勝ち組、楽にお金が貰える、そんな仕事は夢の仕事」と言うあり得ないトンチンカンな幻想を、実現しようとムキになり、周囲を混乱させただけで。

そのせいで壊れた沢山の瓦礫の中で、たった一人で目をつぶって夢を見る。

そんな孤独を感じるのです。


── 考え過ぎですかね?


今、現に私は別の投稿サイトにも登録してますが。

フォロークリエイターの新作が公開される度に、メールで通知が来ます。


でもコンテストに作品を出し落選したクリエイターに「今回は残念でしたが、応募お疲れ様でした。また参加して下さいね」と。

嘘でもテンプレでも、そんなメールを受け取った人は居ましたかね?

さてこれについて、気づいたサイト管理人は居ましたかね?

はっきり言って、ものすごい労力を投下して書いてるんですが。

受賞させろとは言わんが……もう少しクリエイターが作った物に、誠意を持って頂けないと。

そんな出版社やサイトと、怖くて仕事出来ませんよね。商売道具を一体何だと思ってるんだよ、って感じです。




ワナビー達が回す世界で。

産まれるものは、瓦礫の山と壊れた幻想。

あと未曾有の出版不況。

ってトコでしょうかねぇ?


何だか変なところで、考えさせられる映画でありました。


・おススメ度 ★★★☆☆


2019.10.12

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