第54話 暴走乙女ガブリエル
「神里君、とにかく逃げ回りなさい!」
「少しは助けろー!」
面白い状況になってきたから、ジールはこの戦いをビール片手に観戦。おかしくてお腹を抱え笑いをこらえている。
直ぐ様ゼウスが別の空間を作り出し戦闘の場を設けた。そこは真っ暗な空間、まるで宇宙空間にいる感覚だった。
「ラファエル、本当にやるのか?」
「命令なんだから仕方ない。やるしかないぞ! ガブリエル」
「護、絶対に逃げろよ! 五分間耐えてくれ!」
ラファエルが護に注意を促す。あまり乗り気じゃないガブリエル、メタトロンの効果は五分。地獄の五分が始まる。
「メタトロン発動。これより戦闘モードに移行」
「いきなりかよ!」
メタトロンを発動したガブリエル。直ぐ様護に攻撃目標をロックオンする。
護、ごめんな。本当はこんな事したくないけど、許してくれ、これはアタシの護への愛の試練。ガブリエルの心境とは裏腹にひたすら攻撃を繰り返す。
「やめて、マジで死ぬから! 殺戮天使怖いー!」
脅威をもたらすガブリエルのメタトロン。周囲に大爆発が起こり、天界が崩壊する勢いだ。とは言う物の別空間の中だから痛くもかゆくもない。
「出力チャージ、100%、セーフティ解除。目標ロックオン」
すぐさま次の攻撃態勢に入る、護がもう二、三人欲しいくらいだ。いやそれでも足りない。
「うおぉぉぉぉー! ふざけんな! チクショー!」
ひたすら逃げ回る護、そろそろ活動限界の五分が近づいてきた。
「逃げ切った………」
「うーん……もう一回様子を見ようかしら?」
おいっクソババァ! 完全に遊んでるだろ? ジールの一言にブチギレ寸前。乗り気になったゼウスがラァファエルに指示を送り、副作用防止の注射をぶすり。インターバルを終え延長戦開始。
「オラオラァ! 覚悟はいいか? メタトロン
「おいっやめて! マジで死ぬ! 死ぬからーー!」
聞く耳なしのガブリエル、お構いなしに攻撃を繰り返す。
本当に護を愛してしまったのか? 疑問でしか生まれないこの戦い。
「どうした? かかってこいよ!」
挑発行動に出るガブリエル、それでも護は手を出さなかった。俺にはこいつと戦う理由がない。それにこいつを傷つけたら、後が怖い………。
「マジこっち来るなーー! 死ぬ本当に死んじゃうからやめて下さい」
「問答無用!」
「神里君、大丈夫よ死んだら私が生き返らせてあげるから」
「二度死ぬのはごめんだーー!」
もう無理! 絶対無理! 走り回って息が上がってきた。かくなる上は……護は覚悟を決めた。
「すいませんでしたーー!」
護の覚悟それは、どうしようもない時に使う………必殺土下座。これを使えばどんな相手も怯むはず………だったのに。
「おいふざけてるのか?」
「ふざけてません!」
「死ね!」
ガブリエルが護を追い詰めた。もうだめだ死ぬ! 渾身の一撃が護にヒットするかと思いきや、ガブリエルの手が止まった。
目線を一つ変えずに、護をずっと見ている。
「ん? 生きてる」
何かを思い出したのか? ガブリエルの脳裏に護との人間界での思い出が蘇る。護の部屋でゲームしたり、時には大食い対決したり。そして、事の発端となったお姫様抱っこの事も。
何でアタシはこんな事している? あぁ、思い出したアタシはネウロと戦い傷つき、護が必死に守ってくれたんだ。だけど天界ルールに従いアタシは護を愛さないといけないんだった。
今の意識とは裏腹に、護を死なせたくない。アタシは護が好きだ。この気持ちは嘘じゃない! たとえ振り向いてくれなくても、振り向かせてみせる! その思いがはっきりとし、ガブリエルの活動限界が来た。
「た、助かった?」
「動かないわね……」
連続でメタトロンを使用したガブリエルに異変が起きた。体が硬直したかのように、全く動かない。
「ぐぎぎぎっ、やめろ! アタシはアタシだ!」
「ゼウス様、想定外です! メタトロンを連続使用したから、ガブリエルのやつ精神を乗っ取られてます!」
「まさか? 本当に想定外じゃったわ」
ゼウスも知らない新事実、メタトロンを連続使用するとガブリエルの精神が乗っ取られ、敵を殲滅するまで攻撃を止めない暴走マシーンと化した。
「や、やめろー!」
やばい、意識が遠のく……体が言うことを聞かない……ガブリエルの前にどす黒い何かが襲いかかろうとしていた。
「うわあぁぁぁ………全てを……破壊する……」
完全に精神を乗っ取られたガブリエル。どうしたらいいのかわからない。
「ジジイ! どうしてくれるの? これ元々アンタが撒いた種でしょ!」
「それは元々、そこの人間とガブリエルのせいじゃろうが!」
責任の擦り付け合いを始めたゼウスとジール、お互い完全に自分は関係ない事と思っている。
「ミ、ミカエル様、僕もこうなるなんて想定外でした。すみません」
「あなたのせいではありませんよ、気を落とさないでラファエル」
ガブリエルの身体に一点に光が集まり出す。
かなり強力なエネルギー反応。大気が震える程となり、核兵器二つ分は確実にあるくらいだ。
「破壊破壊破壊破壊……敵は全て破壊」
もう、護達の声も届かないのか? 完全に打つ手がなくなった。この世の終焉てこういう事をいうのだろうか?
「破壊する」
もうだめだ。護は祈った、神様、こいつ《ガブリエル》が元に戻るなら戻してと。
ガブリエルの身体に集められた光が大きい球体となり、地面に叩きつけた。球体は地中深く潜り、間もなくして大きな地震が発生した。
「おいっ! やべーぞこれ!」
「そのようね...」
護がジールに何とかしろ! そう言うがジールにもゼウスもどうする事も出来ない。
やがて揺れは大きくなり立っている事もままならない。
「敵は破壊破壊!」
完全に暴走したガブリエル、だが揺れは収まりその後静寂だけが残っている。
「何も起きないわね...どうしたのかしら?」
静かなくらい本当に何も起きなかった。球体を放ったガブリエルはすぐさま意識を失った。
「ま、護ぅーーー! 生きてたかコノヤロー!」
ガブリエルが意識を取り戻し、大泣きしながら護に飛びつく。良かった...何も起きなくて本当に良かった。
気がかりが一つ、本来なら別空間とはいえ、天界そのものを滅ぼし兼ねなかったのに、何故何も起こらなかった?
「もしかして...神里君あなた...」
ジールが何か感づいた。ガブリエルを含め、この場にいる全員が無傷である事。発動者自身に何のメリットのないハッピーマテリアルの魔法が発動された事に。
「いやぁ、確かにもう死ぬかと思ったから祈ったよ」
「あんた役に立ったわね!」
「へ?」
「ハッピーマテリアルがこんな時に発動したのよ! あんたはガブリエルだけじゃなく、天界そのものを救ったのよ!」
これで天界にまた一つ貸しができた。ジールの悪どい顔が浮かび上がる。
「ガブリエル! 戦ってみてどうじゃ? そこの人間をまだ好いておるのか?」
しばしの沈黙が続き、ガブリエルが口を開く。
「ア、アタシはやっぱり護が好きだ! 例え天界ルールに適しないにしてもだ! アタシは護の事を諦めない!」
「ふむ...」
しばらく考え込むゼウス。護はと言うと、当然頭が真っ白け。
俺の事をここまで好きでいてくれるのか? しかし、このまま中途半端でいいのか? ふと考えこむと何故か伊織の顔が第一に浮かび上がった。二次元嫁の紫音がいたとしても、所詮は二次元。護はそこんとこはきちんと分別が付いていた。
俺...好きなのかな? 宮本さんが。
はっきりとはわからないが、護に淡い恋心が芽生えようとしていた。
「おいガブリエル、はっきりとはわからないが、俺にも好きな人がいる...たぶん...だから、お前の想いは嬉しいが、お前の想いには応えられん」
「そう言っておるぞ。ガブリエル」
「例え振り向いてくれなくても、振り向かせてやる!」
「あいわかった。なら二人の交際を認めよう」
「「えーーーーっ!」」
おいジジイ、さっき俺は無理だと言ったよな? 何故こんな展開になる? 護がそう言いたそうにしているのに、何か面白い事になりそうだから、ジールが護の口を塞ぐ。
「但し条件がある。天界の仕事は勿論、人間界の監視。それで人間界を行き来する事を許す」
「わかったぜジジィ! 良いとこあるじゃんよー!」
「相変わらず口が生意気な娘じゃな」」
人間界の監視、それはジールにこれ以上貸しは作りたくないゼウスの考え。今回のネウロの事といい、油断ならない魔族がまだいる事と、ジールにこれ以上デカい顔をさせないためであった。
「んじゃ私達は帰るわね」
「護! ありがとうな!」
「礼を言われる事はしてないぞ」
....チュッ!
「お前! 何を!」
照れながらガブリエルが、護のほっぺに、護のほっぺに、チュウ。
「じ、じゃあな...」
何も言い返せない護、そっと天界を後に家に戻る。
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