第53話 アリサ救出そして2

「神里君! アリサちゃんが目をあけたよ」


「あ、あなたは?」


「初めましてだね、ガブちゃんのお友達の宮本伊織だよ。あっちの男の子は神里護君。私達は普通の人間と違うの」


 と、伊織が説明してる時に護はと言うと。


「おい! クソ天使起きろ!」


 ガブリエルの頬をツネくり、ガブリエルをおもちゃにして遊んでいた。


「うぅ..痛い....って護! 何すんだコノヤロー!!」


「ぐはっ!!」


 ガブリエルの怒りのドロップキックが護の顔にクリーンヒット。護は当然悶絶している。


「乙女の顔を弄ぶとは、ふてぇヤロウだな!」


 誰が乙女だ? と言いたい護。痛みで悶絶し言葉を発する気力もない。


「ア、アリサちゃん! 目が覚めたんだな?」


「ガブリエルちゃん、心配かけたね。ごめんね、もう大丈夫」


 傷ついた体の痛みなぞ忘れ、嬉しそうにアリサの元へ駆け寄るガブリエル。それはまるで無邪気にはしゃぐ子供のように。


「伊織さん、護君、あなた達はジブリールに組していたのね。どうりで人間にしては不思議なオーラが漂っていたわ」


 伊織の説明で護達の素性がわかったアリサ。だからと言って驚きもしていなく、至って冷静だった。


「とにかくありがとう。私またこの人間界で歌える日が来るなんて思ってなかったから、本当にありがとう」


 嬉し涙を流し、冷静になってネウロに付きまとわれたいきさつを話し、ガブリエルが護達に内緒でアリサを助けようとした事も全て納得した護達。当然後で二人から説教タイムに発展したのは言うまでもない。


「あ、あのアリサちゃん」


「ん?」


 もじもじしながら、護が小声で語りかけた。


「アリサちゃんは、声優もやっておられるのですか?」


「えっ? 何? 突然」


 そっとスマホを取り出し、アリサに紫音の画像を見せる。


「えっ? あっうん声優では亜里沙紫音ありさしおんて名前だけど、ちょっと恥ずかしいな。本業は歌手だからね」


 その瞬間、護がハイテンションに。


「サ、サイン下さい! 後、紫音ちゃんの演技でこのスマホに録音してください!」


 こんな時になんてヤツだ。まだアリサが完全じゃないのにサインと生紫音ボイスを欲しがるとは。


「おーい神里君、帰るよー」


 伊織が声をかけるが、二人が何を話しているの全くわからない。


「と、とりあえずここを出よう。助けてくれたお礼も兼ねて君の要望には応えてあげるよ、でもみんなには内緒だよ」


「あ、ありがとう」


 護の要望、それは紫音のボイス目覚ましを作り、終いにはおやすみボイスを入れることだった。護のお宝として重宝しようと心に誓う護。


 アリサは一時ジブリールにて事情聴取を受け、新たな人間界生活を迎える。


「おい護! 話がある」


「まだ居たのか?」


 翌朝、天界に帰ったのかと思ったら、ガブリエルが護の家に入り浸っている。妹莉央に気に入られ、整理休暇だと天界にウソの報告をし、もう一日休みを貰っていた。


「お前とんでもない事をしてくれたな!」


「はいっ?」


 顔を赤らめ、いきなり何を言い出すんだ? こいつは。


「と、とにかくだ、伊織とラファエルを呼んだから話はそれからだ」


 俺、何かしたのか? 護は頭の中を整理したが思い当たらない。


 ほどなくして伊織とラファエルが到着。事情も知らない二人は能天気にやってきた。


「コホン! 皆揃ったし話を始めよう。護アタシを助けてくれた事は感謝している...だがな! アタシをお姫様抱っこしただろ?」


「おいっガブリエルそれ本当か?」


 いきなり驚き、急に大声をあげるラファエル。しかもこの世の終わりみたいな顔をして。


「本当だ、しかも、熱くギューッとな」


「護、よくぞやってくれた」


「??」


 今度はすごく嬉しそうに護の肩を掴み、ガブリエルのお姫様抱っこの真相を話し出すラファエル。


「天界にはある掟があって、天界の女子は男子に身を捧げるとその子は一生相手を伴侶として愛さないといけない。つまり、君の行った事はガブリエルをお姫様抱っこした事。ガブリエルにとっては男子に身を捧げたと同じ!」


「「えーーーーっ!」」


 チラリとガブリエルの顔を伺う、護と伊織。その表情はまさしく恋する乙女の顔そのもの。


「そ、そんなに見つめるなよ、は、恥ずかしいなぁ」


 護は青ざめた。あれはやむを得ずだと主張し天界のルールであり人間界には無縁だと、それでも全く聞く耳なしのガブリエル。


「アタシはな、別にお前の事は悪くないと思ってる。それになあんなに熱く抱きしめられたのは初めてだ」


「おいっ! だからあれは無効だろ!」


「だからな子供は二人くらいで、ペットも一緒にスィートホームを築きたい」


「人の話を聞けーー!」


 将来設計まで始めるガブリエル、もうこの暴走は止められない。


「いやー厄介払いが出来て僕も肩の荷がおりた、護、ガブリエルを頼むぞ」


「おめでとう神里君」


「宮本さん違うって! しかも顔が怖い」


 伊織とラファエルまでもが完全に祝福モード。どことなしか伊織の眉間に血管が浮き出ている。護はというと真っ白な灰となっていた。


「まぁまぁ、これじゃ話が平行線だし天界に掛け合いましょ」


 どこからともなく、ジールが参上。何か更に話がややこしくなりそうな予感。


「ガブリエルちゃん、神里君はね私に一億で買われたの。彼に恋するのは勝手だけどね、先ずはジブリールを通して欲しいわね」


「何だと! おいっ護それ本当か?」


「本当です...」


「なら、アタシは二億払う! そしてアタシは護と……これ以上は言わすな! 恥ずかしいなぁ」


 いつのまにやら護争奪オークションと化した。それにしても二億と言う大金はどうやって用意するんだか。


「ガブリエルちゃん、見栄を張るのはお止めなさい!」


「アタシは本気だ! 護の事、す、好きになっちまったんだよぉー! だから、護はアタシが貰う!」


「あのね、ガブリエルちゃん、私達の世界はね結婚は十八歳からって法律があるの。だからね神里君はまだ結婚できません!」


 埒があかないので、伊織が事を冷静にうまくまとめた。


 護は思った、何故異界の人間に猛烈アタックされるのか? 以前戦ったフェニアといい、今回はガブリエルしかも天使様。


「じゃあ、神里君とガブリエルを天界に連れて話をつけてくるわね」


 半ば強引に天界に連行された護、当然ラファエルも同行。

 ガブリエルはと言うと結婚を前提にお付き合いすれば良いと言い出し、護から離れない。


「おいっ、ガブリエル様、何でさっきから腕を組む?」


「もう、アタシと護は愛を誓った中、良いじゃないか」


 誓ってねーし! ダメだこいつ、完全に恋する乙女モードだ。

 呆れて物も言えない護。ただ、こいつはまぁ、顔立ちは可愛いのだが、と護は思った。


「ハローゼウスのジジイ、あら? ミカエルも」


「「ジ、ジール? な、何しに来た?」」


 天界に着くやいなや、白く長い髭を生やし、威圧感たっぷりの天界を牛耳るゼウスと、ガブリエルの直属の上司ミカエルがいた。


「めんどうだから、これで説明するわ」


 どこからか大鏡が用意され、護とガブリエルが鏡の中に吸い込まれた。次第に鏡が護とガブリエルに起きた出来事が、VTR再生されていく。


 再生が終わり、これは天界ルール適用になるのか問いただすジール。


「まぁ、確かにこれは事故ですね……ゼウス様」


「うむ、そうであるな。しかし、ジールこれにはお前は無関係じゃないのか?」


「確かにね、でもね、ここにいる私の道具……いや、人間の神里君はジブリールの人間でもあるのよ! 関係ないわけないでしょ!」


 何てひどい言われよう……護を道具扱いするとは。再生が終わると、護とガブリエルは鏡の中から再び現れた。


 しばらく沈黙が続き、ゼウスが口を開く。


「ガブリエルよ、今回の件、天界ルールは無効とするが、それでもそこの人間を伴侶として迎えるのか?」


「アタシは、護にあんなに熱く、激しく抱きしめられたのは初めてだ……」


 ちょっと待てーい! 話が段々ややこしくされている。これ以上、事をややこしくされたらたまった物じゃない。慌てて護はガブリエルの口を手で塞いだ。


「人間と天使の恋愛か……まぁ反対はしませんが……ただね、事と場合によってはガブリエルは天使を辞めてもらう事になりますが」


 ミカエルが反対するかと思いきや、逆にガブリエルの恋路を後押ししている。


「ならば、仕方ない、ガブリエルよメタトロンを発動しろ!」


「はいっ?」


「その男を好いておるなら、そいつを殺す事などできまい」


 メタトロンを発動すれば、ガブリエルは戦闘モードとなり、誰の聞く耳を持たなくなる。何か危険な香りを感じた護、今度こそ人生終わりかもと。




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