第50話 ガブリエルVSネウロ

ラファエルがいなくても、やってやる! メタトロンが使えない今ガブリエルは決心した

 全てはアリサを助ける為に。


「お前をぶっ倒して魔界の監獄送りにしてやるよ!!」


 いきり立って、親指を下に向けたガブリエル。正直不安だらけだが、自分も天界では強いと有名。


「面白い! やってみたまえ」


 背中の羽を解放し、槍を旋回させ、ネウロに突っ込むガブリエル。

 ………手応えはあった。確かに手応えはあったのだが。


「どこを見ているのですか?」


 ネウロの姿はガブリエルの背後を捕らえ、強烈な蹴りが炸裂。


「ぐはっ!」


「ちょうどいい……あなたもこの大木の餌にしてあげますよ!」


 ネウロの手から、黒く、怨念に満ちた波動が溢れ出す。

 回避する間もなく、ガブリエルの体を包み込む。


「さぁ、黒き怨念に取り込まれ、堕天なさい」


「ぐぬぬ!」


 事もあろうにガブリエルを堕天させ、自分のマリオネットにしようと企みだした。

 ガブリエルの頭の中に無数の怨念の声が響き渡る。


「テメェ、アンデットの類か?」


「うーん、ちょっと違いますね。私は傀儡くぐつ使い。あらゆる生物を操り人形の如く操ります。そう、生きとし生ける者の魂を吸い取り操り人形にします」


「このヤロ―アリサちゃんを生け贄にし、大木から全ての生命エネルギーを吸い取る作戦か」


「ご名答、彼女はこの大木の適合者。そんなわけで、堕天して下さい」


 邪悪な光が紐状と化し、ガブリエルの体を縛りつける。

 締め付けがきつくなり、意識が遠のく。


「や、やべぇ……どうしよ……」


 ガブリエルの頭の中に、これまでの思い出が走馬灯の様に駆け巡る。

 天界での日々、護達と戦った日々、最近過ごしたアリサのライブ。


 ………負けるわけにはいかない!


「ぐぬぬっ! ナメんなコラーッ!!」


 渾身の力を振り絞り、ガブリエルの体が青白い光を放ち、ネウロの呪縛を解き放つ。


「アタシを怒らせたな! 二度とナメた口聞けないくらい、ボコボコにしてやんよ!」


 拳を握りしめ、渾身の一撃をネウロにぶつける

 だが、ヒットはしたものの、先にネウロから受けたダメージが効いているため、力がもう残ってない。


「痛いじゃないですか……私、怒りましたよ……二度と生意気な口を聞けなくし、絶望と恐怖を味わいなさい!」


 立ち上がる事もできないガブリエルの胸ぐらを掴み、再び黒い波動を放ちガブリエルの首を締め上げた。


「んぐぐぐ……」


「苦しいでしょ? それも直ぐに終わります」


 今度こそ終わりかも、そんな思いが頭を過る。一発ぶちかましたのに、大して効いてない……。


「ま、護ぅ、伊織ぃ、ごめん」


 ガブリエルの顔が段々と青く、頭の輪と背中の羽が徐々に黒く染まり出す。


「バカリエル! お前僕のとっておいたおやつ食べただろ!」


「知らねぇよ! ネズミが食ったんじゃねぇの?」


 ふと、天界でのラファエルの顔が浮かび、天界でラファエルのおやつを食べた思い出が。


「あたしが食ったという証拠はあるのかよ?」


「じゃあ、何を食った? 口の回りにチョコついてるぞ」


「あたしが食べたのは、チョコ羊羮ようかんだ」


「………僕は口の回りについているチョコについて言った。奇遇だな、僕のおやつはチョコ羊羮だったんだが、何でお前はチョコ羊羮だと?」


「ギクッ!!」


 ば、バレてる。どうやり過ごそうか模索し、言い訳を考えるガブリエル。ラファエルの怒りが殺気に満ち溢れだした。


「あ、あたしのおやつもチョコ羊羮だったんだよ、だからってあたしを疑うのか?」


「やっぱりお前かー! バカリエル」


 何故に今頃、あんな事を思い出したのか? ラファエルに対する罪の意識を感じてしまたとでも言うのか?


「死ぬ前にもう一度、デカ盛りパフェ食べたかったなぁ」


 後悔と懸念が生まれ、走馬灯のようにぐるぐると護達と過ごした休日がガブリエルの頭の中を駆け巡る。このまま堕天使になるか、魔界で余生を過ごそうか、などの考えが脳裏を過る。意識が段々と薄れていく中、喋る気力すらなくなり出した。


「あらら? もう終わりですか?」


 もう、ネウロの声も聞こえないガブリエル。彼女の視界はもう真っ暗な闇に包まれた。


「もう、喋る力もないですか? じゃあそろそろ死んでくださいね」


 胸元から短剣を取り出し、ガブリエルの喉元に突きつける。


 ネウロの短剣は、確かにガブリエルの胸元を突き刺したはずであったのだが。


「えっ? な、何ですか? これは? 私の手が燃えている」


 突然、ネウロの手が燃え始めた。ネウロの叫びと共にガブリエルがうっすらと意識を取り戻した。


「い、生きてるのか?」


「探したぞ、一人で無茶しやがってバカ天使!」


「ま、護!」


 目を細めながらその姿を確認。その姿は紛れもない、護であった。しかし、護の登場よりもガブリエルの今の現状が、護にお姫様抱っこされている事に動揺し、胸がキュンとなりだす。


「神里君、こっちも準備オッケーだよ」


 反対方向から、伊織も参上。その手は青白い光に包まれ、何かを始めようとしていた。


「宮本さん、ナイス」


 抱き抱えていたガブリエルをそっと床に寝かせ、直ぐ様伊織の合図を待つ護。それよりか、ガブリエルが護に抱き抱えられてから妙に赤面していた。


「ま、護の野郎……お、お姫様抱っこなどしやがって……胸がドキドキしちまったじゃねーか……あいつとんでもない事をしてくれたな」


 とか言いながら、ガブリエルの胸がさらにときめいている。とんでもない事とは何なのか? 体力が残ってない今は二人に託す事にした。


「人間が何故?」


「どうでもいいじゃんそんな事は。アリサちゃんは全国民のアイドル、そのアイドルが失ったとなれば全国のアリサちゃんファンが怒り爆発なんだよ」


「なるほど……あなたもアリサさんのファンの一人ですか」


「それもあるがな。つい最近知ったが、まさか俺の好きなゲームのキャラクターの声優をしていたとは知らなかった」


 伊織が目の前にいるから、はっきり言えないでいたが護の好きなゲームのキャラクターの声優とは、護が愛してやまない二次元嫁の紫音の事だった。


「そうですか。しかし、秘密を知った以上生かしておきませんよ」


 完全に逆上したネウロ。手に魔力を集中させ、伊織の出方を見守る護。


「神里君、離れて!」


 伊織の青白く輝く手からホーリーボールが放たれた。しかも、以前よりスピードが増している。野球で例えるなら、球速百五十キロオーバーの球を投げているような物。


「チッ!」


 避ける間もなく、ネウロの右腕に直撃。


「い、伊織様。前より威力増してませんか?」


 護は青ざめた顔で、恐る恐る伊織に語りかけた。


「神里君、何の為に書き取りノートこなしていたの?」


 ジールが二人に課していた魔法の書き取りノート。こなしていく度に己の魔力を高める修行でもあったのだ。毎日欠かさずこなしていた伊織、半分サボっていた護、明らかに雲泥の差、月とすっぽんであった。


「あ、あなた達は人間の分際で、何故魔法を?」


 負傷した右腕を押さえながら、考え込むネウロ。たが、直ぐにわかった。この二人はジブリールの手の者だと。


「ジブリールも人間に魔法を使わせて、我々魔族の監視ですか……」


「魔族でも、アリサさんみたいに一生懸命生きている魔族がいるのはわかっているわ。悪い魔族ばかりじゃないのはわかっている」


 伊織はわかっていた。アリサみたいに人間界を一生懸命生きている魔族がいる事は。人間に悟られないように、人間達と共同生活をしている魔族の背中を押してあげたい。それが異世界交流法だから。


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