第41話 シャイニングフレア
タルタロスが、全く動く気配がない。伊織達は固唾を見守るが、緊張が途切れない。
「ガブリエルちゃん、あれは?」
「ん? 伊織に向かって来るぞ」
タルタロスから、淡い光が伊織に向かって突進してきた。どんどん加速し、姿が見えてくる。
「伊織ちゃーん。会いたかったよぉぉ」
光の正体は光の書。みるみると近づき、伊織に突進……。
…………むにゅっ。
「きゃあっ!!」
突進した先が、伊織の柔らかい胸にストライク。光の書は直ぐ様地面に叩きつけられた。光の書がスケベ本になるとは……。
「光の書! テメーのせいで」
「落ち着けバカリエル」
怒り狂ったガブリエル、それを抑えるラファエル。
「いやぁ、ごめんごめん。後から護も来るから」
「神里君が!?」
「うおわぁぁぁー」
言っている内に直ぐに護の姿が現れた。
「護、無事だったかぁコノヤロー」
「神里君、無事で良かった」
「い、痛い。そんなに肩を揺らさないで」
伊織とガブリエルが護の肩を揺らす。これでもかと言うくらいに。
「神里君、フェニアはどうしたの?」
「ん? ジールさん? 戦って勝った……そして今、ここに居る」
首にかけられたペンダントを見せる護。これまでの事を全て話す。タルタロスの生け贄とされたベリアルの事まで。
「まぁ、何て哀れな。うぎっ!」
笑いながらペンダントに触れようとしたジール。ペンダントから電撃が発せられた。
「ちょっと、私に勝手に触れないで貰えるかしら?」
「フェニア、あんた死んだんじゃなかったの?」
「死にかけたわ。でもね、護君が側に居てもいいって言ってくれたのよ」
白い目で、護を睨むジールと伊織。なぜか、ガブリエルまで。
「タルタロスをやっつけるのに、手を貸してくれると言う条件でこうなった」
護がシャドウフレアを放った後、フェニアも瀕死の状態となり、死を迎える間近だった。しかし、護の側に居たいと言う一心でペンダントとなったが、護は拒否をしていた。どうしてもと言うから、時間もなかったし、交換条件を出して今に至る。
「少しでも、強い味方居た方がいいでしょ?」
全員、護の言う事に納得。
「タルタロス動かないわね」
「よっしゃー、今の内に破壊するぞ。ラファエル!」
「はいはい……。落ち着けバカリエル」
戦況を見守るジール。
やる気満々のガブリエル。
ゴゴゴゴッ!!
タルタロスが再び動き出す。二冊の本を護が奪ったのに、力が増幅している。タルタロスを弱体化できると思い込んだが、完全に当てが外れた。
「護、お前の考えは間違っていない。あの野郎、俺達の知識を盗みやがった」
ガックリうなだれる護に、光の書が声をかけた。ただの無知な魔神かと思ったら、二冊の本を吸収した事により、学習能力を身に付けていた。
「オレト、タタカウヤツ、ダレダ?」
「アタシだよ!」
真っ先にガブリエルが名乗り出る。
「護達は、休んでな! アタシが
「ガブリエルちゃん、無茶だよ」
「んじゃ、任せるわ」
「「えっ?」」
護の発言に、ガブリエルと伊織が反応した。
「神里君! いたいけな女の子が戦っているのよ! 君は逃げるの?」
「そうだぞ護! アタシにだって限界が」
「いや、だってバカリエルが、アタシに任せろと言うから、お言葉に甘えて休もうかと。それに、宮本さんも魔力消耗してるでしょ? 今の内に魔力を回復させよう」
槍でも降るのか? 普段だらだらしているのに、たまに、まともな事を言う護に呆気に取られた顔をする伊織。
「そんなわけで、任せたぞガブリエル様。お前が頼りだ、今日もキュートでお美しい」
「ババ、バカヤロー。お、おだてても、何も出ねーからな」
照れ隠しをしながら、護に上手く乗せられたガブリエル。戦闘モードに突入し、タルタロスに向かっていく。護は、チョロいもんだぜと、してやったりな顔をした。
「全力全開! メタトロン発動!」
「イイゾ、オレヲ、タノシマセロ」
タルタロスの大剣がガブリエルに斬りかかる。ガブリエルの防御壁が展開され、カウンターでメタトロンを発射。
ドカーンと、激しい爆発が起こり、間髪入れずにガブリエルの攻撃が続いた。爆発により、煙が発生何がおきたのかさっぱりわからない。
「ガブリエルちゃん……」
「伊織、あいつなら大丈夫よ。バカだし」
「ジール様! いくらなんでも」
「いいから、今は休みなさい! 神里君私のターンね」
「いいだろう、俺のガーディアンを崩してみろや!」
とにかく休め。ジールの表情が、いつもの倍厳しい……かと思ったら、事もあろうに、護とトレーディングカードゲームを遊びだすジール。
「何やってるんですかぁぁぁー!!」
久しぶりの伊織のハリセンチョップ。護とジールにクリーンヒット。
「もう、いいです。私ガブリエルちゃんを加勢に行きます」
「ムッフッフッ。伊織ちゃんこの俺が力を貸そう」
伊織に叩きつけられた光の書が意識を取り戻し、伊織の元へ。
「はいっ?」
「俺は光の書。伊織ちゃんは光魔法が得意。相性バッチし」
さっきから思ったが、この本胡散臭い。
伊織の第六感が、そう伝えている。
「それで、私にどうしろと?」
「その前に、俺の白紙のページに伊織ちゃんを残させて」
ドカッ! ズカッ! バキッ!
「この非常時に何をやっているの? さっさと力を貸しなさいよ」
光の書をフルボッコした伊織の顔が怖い。メガネの奥にある瞳が怖い。
「しゅみません……やります。やらせて頂きます。それでは私の後に続いて詠唱して下さい」
かしこまり、光の書が光りだした。
「闇をも振り祓う大いなる光よ、聖なる審判、神の鉄槌を」
伊織の体が強大な魔力に包まれる。髪が逆立ち、大気が震えだす。
爆煙が晴れ、ガブリエルとタルタロスが互角の戦いを強いているが、ガブリエルの活動限界が近づいた。
「ガブリエル退け。時間だ」
「チッ……もう少しだったのに」
「オマエ、ツヨイナ、サイコウダ」
「ガブリエルちゃん離れて!」
伊織の合図で、タルタロスから距離を取るガブリエルとラファエル。
「シャイニングフレア!!」
大気の震えと同時に、伊織の手から放たれた金色の光、シャイニングフレア。空間全体が爆風の嵐となった。
「伊織、す、すげー」
「グオォーッ。アツイ、カラダガヤケル」
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