第39話 激突

「伊織、このまま真っ直ぐだ」


「はいっ」


 漆黒に包まれ、ぽっかりと大きく口をあけたゲートが待ち受けている。それこそが、ジブリールと魔界を繋ぐゲートであり、途中歪んだ空間を通る空間が魔界との狭間であった。


「良く、ここまで耐えたわね褒めてあげるわ。タルタロス全霊を持ってやつらを倒しなさい」


 タルタロスの驚異的なビームが放たれる。


「よし、ガブリエル行くぞ」


「待ってました。戦闘モード移行、これよりメタトロン発動チャージに入る」


「伊織、時間を稼いでくれ」


「はいっ。聖なる光よ……以下省略セイクリッドレイン!!」


 フェニアとの戦いで魔法詠唱省略化を完全に自分の物とした伊織。それだけ集中力が高まらないとできない芸当である。


「本当にあなたウザいわね」


「伊織!!」


 タルタロスが標的を伊織に集中。大剣が伊織に向かって斬りかかってくるが、ラファエルの槍で何とか防いだ。


「チャージ完了。これより敵を殲滅する」


「伊織、ガブリエルの後ろへ」


 ラファエルの指示に従い、ガブリエルの後ろへ退避した伊織。直ぐ様タルタロスが大剣をガブリエルに。


「メタトロン発動。全力モードオン」


 ガブリエルの背後から現れた魔法陣が広範囲に渡り、強力なビームを発射。大きな爆発音と共にタルタロスも胸部からビームを出して応戦。


「やばい、そろそろ活動限界時間だ」


「えっ?」


 ガブリエルの戦闘モードの活動限界は五分。そうなると、幼稚なガブリエルになってしまう。元に戻すにはラファエルの持っている、注射器で薬を投与しなければならない。


「活動限界が来たら伊織、再びあいつを頼む。再び元に戻すには、二分くらいインターバルが必要なんだ」


「わかりました……」


 感づかれない様に、ガブリエルをタルタロスの視界から外し、再び伊織が魔法で足止めする。


「計算外だわ。あの天使ちゃん、あんな力を隠してたのね……」


 内部からフェニアが緊張の眼差しで見つめる。

 護はと言うと、フェニアによって体を拘束され、自由を奪われている。


「さて……どうしたものか」


「もう少し辛抱してね。これが終わったら二人で愛の逃避行よ」


 投げキッスとウィンクを護に投げ交わし、戦況を見つめるフェニア。このままだと、護は本当にフェニアの物になってしまう。


「どうしよう……マジで」


 考えろ……考えるんだ。

 護の実力ではフェニアには勝てない。真っ向勝負したら、確実に負ける。


「ねぇ……フェニアさん」


「あら? 何かしら? 私が恋しくなった?」


 そんなわけあるか! と言いたいが、口に出したら何をされるかわかったものではない。


「ト、トイレに行きたいんだけど」


「えっ?」


 嘘か本当かはわからないが、トイレに行きたいと言い出した護。タルタロスの内部にそんな物は………。


「コノ、アナヲ、トオレバ、トイレガアル」


 都合が良すぎるくらいにあった。タルタロスが入り口と思われる穴を開け、護を案内する。ちなみにフェニアは使い捨ての簡易トイレを用意しようとしたのだが、敢えなく失敗。


「もぉ、しょうがないわねぇ、早く帰って来てね。ダーリン」


 縛りつけていた物を外し、照れながら護を見送る。悪寒と鳥肌を立てながら、そそくさとトイレへ。こんな美人な人が、自分を好きになってくれるのは嬉しいのだが、こいつは敵だと言い聞かし、理性を保っている。


「………ふぅ、スッキリした」


 溜まりに溜まった物を出して、これからどうするか……。

 とりあえず、迷子のふりをしてタルタロスの内部散策開始。魔神と名乗るくせに、要塞の様な内部。細く狭い通路をひた走る。


「魔神と言うか、兵器だなこれ。それなら、どこかに動力部がある」


 考えてもらちが開かない。そっと護はスマホを取り出し、二次元嫁の紫音の画像を見つめる。


「紫音ちゃん、俺に力を貸して」


「うん。まも君、頑張ってね」


 またもや、妄想で紫音とラブラブなシチュエーションを演じる護と紫音。伊織もいない、頼れるのは自分と自分を支えてくれている紫音の存在。


「やるしかねぇ……」


 伊織達が頑張っているのに、自分だけ、ただ指を加えて見てろ? そんなのは護の男としてのプライドが許さなかった。


 ズガガガッ!!


 外では再びガブリエルが、タルタロスに攻撃を仕掛け始める。


「オラオラッ!! 今度のアタシはちょっと強えぇぞ。戦闘モードフェイズ2、戦乙女ヴァルキリーモード発動。メタトロン第二撃行くぜぇー」


 先ほどの無表情とは違ったヤンキー口調で、メタトロンを乱射するガブリエル。

 この隙に護もサンダーボルトで内部の壁を次々と破壊していく。チマチマ面倒だから、壁をぶち破って進もうとする護の考えでもあった。


「ナンカ、オナカガ、イタイ、キノセイカ」


 ガブリエルとの戦いに夢中のため、護が魔法で壁をぶち破っているなど露知らず。


「どこだここは? あれは本じゃねーか」


 目にしたのは、護の財布を尽く吸いとった忌々しい憎き光の本かと思われたのだが、どこか違う。


「小僧、俺を手にしろ。俺は闇の書だ、タルタロスに戦いの知識を与えている」


「光の書じゃないのか?」


「光の書? あぁハチベエか、あいつは俺の相棒だ。タルタロスに良いようにされるのがムカつくんだよ。勝手に敷かれたレールの上に乗せやがって」


「つまりはあれか? 俺は自由でいたいんだよ、的な?」


「そうだ、だから俺達は天界と魔界に委ね、誰も手の届かない場所へ封印してもらった」


 何も言わずとも、RPGをやり込んでいる護の脳が活性化され、直ぐにわかった……この本を手中に収めれば、タルタロスを弱体化できる。


「じゃあ、さっさとやりますか」


 闇の書に手を伸ばし、あっさりと手中に収めたが……何かあるのかと思ったが、これと言って何も起こらず、肩透かしを食らった。


「じゃ次行くぞ」


「恐らく、ハチベエは反対側にいる。俺達が居る場所はタルタロスの脳の部分だろう」


「ここ、あいつの脳内だったのか……」


 二冊の本が右脳と左脳の役割をしていたなんて……それなら、この反対側に回り込めばきっと光の書がある。


「ビンゴ!!」


 推測通り、光の書のある場所に出た。本当は、このままにしてやろうかと思った。

 人の財布をむさぼり尽くした恨みが蘇る。こいつのせいで、ゲームの課金ができなかった。だけど、タルタロスを倒せば全て終わる。


「あーーーっもう! 面倒だな」


 光の書に手を伸ばし、二冊の本が護の元に。


「護ぅ、やっと会えた」


「俺は会いたくなかったがな! さっさとここを脱出するぞ」


 ゴゴゴゴッ!!


 タルタロスの思考が停止した。


 表では、ガブリエルがひたすらタルタロスを攻撃。抵抗する様子も見られない。


「何だ? あいつ動かないぞ」


「ガブリエル、丁度時間だ。今の内に」


「チッ……もう少しだったのに」


「みんな、わかったわよ」


 ジールが息を切らしながら伊織の元へ。


「ジール様わかったんですか?」


「ハァッハァッ……えぇ、あいつを倒すにはタルタロスに取り込まれた二冊の本が必要なの」


 息を整え、落ち着いて説明をするジール。


「究極魔法ゴッドフレア……これさえあれば」


「だけど、どうやって?」


「二冊の本が鍵になるのよ。だけど、二冊の本はタルタロスの内部。神里君に賭けるしかないわね」


 タルタロスの内部にいる護が、二冊の本を無事に取り返す事を祈るしか他になかった。

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