第37話 タルタロス復活

護は帰ってから自分の部屋で寝ていたのだが。目が覚めたら知らない天井が。前にもこんな事があったこの光景。


「おはよ。護君」


「………げっ!!」


 目が覚めたら視界にフェニアがいた。どうしてこうなった? 確かに自分の部屋で寝ていたのに。


「ここはね、私の住み家で、あなたのお家でもあるのよ。ちなみに、ここはねジブリールと魔界の狭間」


 顔を赤くしながら、照れながら話すフェニア。何か新鮮で可愛らしいが、こいつは敵だ、油断ならない。護は静かに防衛ラインを引く。


「そんなに警戒しないで、私はもう、君に危害を加えるつもりはないわ」


「それで、何で俺はここに?」


「うふふっ。それはね」


 遡る事、六時間前。護は直ぐ様眠りについた。家にフェニアが押し掛けて、馴れ馴れしく両親に挨拶をする。


「初めまして、フェニアと言います。早速ですが息子さんをお婿に下さい。あっ、もちろん護君が十八歳になるまでは待ちますわ。それまでは婚約者でいさせて下さい。ついでに護君に苦労はさせませんわよ」


「あなた、この人素敵な方ね。こんな美人の義理の娘が出来るだなんて」


「そうだな、この方なら護の将来も安心だろう。莉央の良き義理の姉にもなりそうだ」


 当然ここまで、フェニアが催眠術で暗示をかけているのは言うまでもない。


「「息子をよろしくお願い致します」」


「はーい。任されました」


 そのまま眠っている護を抱き抱え、今に至る。


「何しやがるんだ! あのバカ親は」


「私はね、護君に幸せになって欲しい。もう少しで私の野望が達成するの。そしたら二人で永遠の愛を築きましょ」


 そう言って、部屋を出たフェニア。当然部屋の鍵は閉められ、監禁状態となってしまった。だが、慈悲があったのか部屋には冷蔵庫とバスルームとトイレは設備されていた。


「お願い……ボクをお家に帰して」


 半べそかきながら、冷蔵庫にあったコーラを飲み干し途方に暮れる。


「いいのか? あの小僧敵だろ?」


「私ね、ここ最近恋愛をしてなくてね。護君に惚れちゃった。だから、どんな手を使ってでも彼を私の物にするわ。タルタロスの封印場所もわかったし行くわよベリアル」


 ジブリールと魔界の狭間、ここに危険な魔神タルタロスが封印されていようとはジブリール側も、魔界側も誰も知らなかった。

 フェニアは、いの一番にタルタロスの居場所を見つけ封印解除の方法を調べあげ、鍵となる二冊の本を手中に収めたのだ。


「ここね」


 辿り着いた先は歪められた空間の中。そのど真ん中に魔方陣が敷いてあっただけであった。


「さぁ、始めましょ」


 ぶつぶつと呪文を唱え始めると、魔方陣から紫色の光が発生。徐々に魔方陣から、魔神タルタロスの姿が浮かび上がってくる。その姿は、漆黒の体に身の丈十メートルはあろうかと言う巨体。右手には巨大な大剣を持ち合わせていた。


「これが、タルタロス……」


「ええ……私も初めて見るけど、正確には兵器と行った方が正解かしら?」


 胸元から二冊の本を取り出し、タルタロスの足元に置き出した。


「さぁ、ハチベエちゃんに、クロベエちゃん役に立ってね」


「やべぇぞ……クロベエ、ページが勝手に」


「俺もだハチベエ、あの女マジだ」


 二冊の本がタルタロスの体内に吸い込まれ、次第にタルタロスが動き始めた。


「ワレ、モトム……ツヨイチヲ……ワレモトム……」


 タルタロスの目が光り、かたことに喋りだし、強い血を求む、確かにはっきりとそう言っていた。


「強い血?」


「ねぇ? ベリアルあなたは暴れたいのよね?」


「あぁ。俺を長い事魔界の監獄に閉じ込め、溜まりに溜まっていたからな。特に天界の奴らには世話になったし。必ず報復してやる」


 ベリアルを倒した天界、溜まりに溜まったフラストレーションが破裂しそうなくらいに天界に対して恨み募っていた。


「ベリアル、あなたの願いを叶えましょう」


 ………グサリッ!!


「ぐっ! き、キサマ、フェニア何を?」


 目を疑う行動。胸元に隠していた短剣を、フェニアはベリアルの心臓にグサリと刺したのだ。


「ねぇ知ってる? タルタロスの封印を解くには、二冊の本だけじゃダメなのよ。強い血、つまり、強い魔族の血が必要なわけ」


「どういう事だ?」


 血を吐きながら、ベリアルがそっとフェニアを睨む。


「強い魔族と言っても中々目星がなくてね。そしたら強力な魔族反応を感じたのよ」


「それが俺か?」


「ご名答。あなたと手を組んだのは、あなたをタルタロスに捧げる為よ」


「くっ、キサマアァ」


 デモンズソードを取り出し、フェニアに斬りかかるベリアル。瀕死になりながらも、その動きはまだまだ衰えていない。手応えは十分であった。


「やったか。フッ、フハハハハ、俺を陥れ入れようとはな!」


 完全に勝ち誇ったベリアルだったが、タルタロスはまだ動く気配がない。このまま、タルタロスを自分の物にしようと手をさしのべた。


「さぁ、タルタロス俺と共に」


「なぁに? もう勝った気分でいたわけ?」


「なっ!!」


「私の幻影魔法に引っ掛かるなんてね。S級魔族も腕が鈍ったのかしら?」


 ベリアルが斬りつけたフェニアは幻であった。水を使って体を実体化させるフェニア得意の幻影魔法。まんまと騙されたベリアルに対し、傷一つないフェニアはベリアルを見下し、嘲笑っている。


「さぁ、タルタロスに身を捧げなさい」


 黒炎の炎を出し、ベリアルの体が炎に包まれ、その身はタルタロスに吸い寄せられた。


「…………女狐め」


「グガガガッコノクサリヲ……タチキッテクレ」


 凄まじい魔力がタルタロスから感じられ、体を縛り付けている鎖を解いてくれと要求し始める。


「鎖? どうしよう」


「コイツナラキレル」


 二冊の本を吸収したのか、優秀な知能を備え、そしてベリアルを吸収した力。

 タルタロスの胸部からは護が投影された。それは、二冊の本が答えを導き出しているからだ。


「まぁ! やはり運命なのね。護君今、迎えにいくからね」


 タルタロスを残し護を連れ出しに行ったフェニア。そんな事は露知らずに、部屋を脱出しようとしている護。


「うおぉー出せー!!」


 鍵のかかった扉に、あらゆる魔法をぶつけていた護。

 フェニアが張った結界と同時に二重ロックされ、一筋縄ではいかない。


「ファイヤーボール!!」


 炎魔法も虚しく空振り。完全に打つ手が断たれた……。


「もう、おいたしちゃダーメ」


「ぎょえぇー!!」


 護の背後にフェニアが突然現れ、護の手を強引に引っ張りだす。


「ちょっと、放してくれー」


「ここから出してあげるんだから、大人しくしてね」


 絶対これ、ついて行ったらダメなパターンだ。しかし、フェニアの魔力で護の自由は完全に奪われている。次第にタルタロスの元へ近づくフェニア。タルタロスの姿を見て圧巻する護。


「何ですか? これ」


「あなた達が、必死になって食い止めようとしたタルタロス」


「こ、これが」


 にこりと微笑み、護の体を操り出すフェニア。今まさに、フェニアのマリオネットとなってしまった護。次第に手が勝手に動き始める。


「さぁ、見せて。護君」


 興奮が抑えられないフェニア、護と一緒に居られる喜びと、タルタロスの復活に酔いしれて。


「な、なんだ? さっきから体が勝手に。あの人じゃない」


 フェニアが操ってるわけではなく、操っているのはタルタロスであった。キラリと妖しく光る瞳を輝かせ、護の体を操りだしている。


「我が魔力剣となりて具現せよ」


 手の次は口が勝手に動き、魔力を具現化させた。普段は使えないのに……。


「えっ? 何で?」


 疑問抱きながら、護の剣がタルタロスを縛り付けている鎖を断ち斬った。


「グガガガッ。オマエヲ、ワガアルジト、ミトメル」


「まぁ、素晴らしいわ。護君私とあなたはやはり、運命の糸で繋がれているのね」


 これ、俺がやったのか? と言う顔をしながら、完全に固まってしまった護。操られたとは言うものの、とんでもない事をしてしまった。

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