第27話 そして決着へ。

「小僧! 貴様!!」


 ………一撃を浴びせるはずだったのだが。

 ズテーンと足を滑らせしりもちをついた護。

 当然剣は、後ろの壁に突き刺さる。


「神里君、君は何てドジなの……」


「見ないで………恥ずかしいから。宮本さんこれ以上哀れな瞳でボクを見ないで」


「お主ら、付き合っているのか?」


「「付き合ってない!!」」


 せっかくのカッコいいシーンが詰めが甘く、台無しに。終いにはコキュートスに茶化される二人。立ち上がり体勢を立て直す。


「ホッホッホッ。こりゃゆかいゆかい」


「色白女、このやろー、次は必ず当ててやる」


「弱い犬程よく吠えるとか言うが………小僧、貴様の威勢の良さは買ってやるぞ」


 ………ゴクリッ。

 固唾を飲んで見守る伊織、コキュートスから放たれる冷気が更に強さを増していく。


「あの炎邪魔じゃのぉ………」


 チラリと壁に燃え盛る炎を見つめるコキュートス。

 炎に向かって冷気を解き放つが炎は消えずに燃え盛っていた。


「消えぬとはな!? 不思議な事もあるのだな。じゃがわらわには関係のない事」


 コキュートスの体が光を帯び始め、体内に全ての魔力が解き放たれようとしている。


「しょうがない神里君、私の言う事を良く聞いて。先ずはわたしの背後に立って! その後、少しの間私は動かなくなるから。その内にコキュートスを何とかして!」


 目を瞑り、詠唱を始める伊織、護にはわけがわからない。


「何を企んでおるのか知らんが、無駄な事じゃ」


 コキュートスが全身全霊を込めた冷気を一気に解放させ、絶対零度の領域まで達した。このままだと、二人があっさりやられる。


「我に仇なす悪しき者を打ち破らん……マジックシールド!!」


 同時に伊織がマジックシールドを発動し、仮死状態となるが、コキュートスの攻撃を完全にシャットアウトした。


「ま、まさか。こんな隠し玉があるとはな……」


 今の攻撃でコキュートスの体力も大分削られ、伊織も仮死状態に入り、現状護とコキュートスの一対一となった。


「宮本さん? 動かない……そういう事だったのか」


 立ったまま動かない伊織を見つめる護。相変わらず可愛い寝顔だ……今なら何をやっても怒られない。そっと伊織にイタズラしようとしたが………やめた。やっぱり後が怖いから。


「さてと………小僧、貴様から始末してやるわ」


「小僧、小僧て言うけどな……俺には神里護て名前があるんだ! 覚えとけ!!」


 やけになったのか、ファイヤーボールを乱れ打ちする護。


「無駄な足掻きじゃのぉ……」


「無駄じゃねーし」


 護のファイヤーボールに注意を反らしてコキュートスの目の前に立ちはだかった。


「この距離なら外さねー! 後な、俺の日常を返せーー!」


 護のサンダーボルトがコキュートスの顔面に炸裂。目眩ましと同時に、コキュートスの体が感電した。


「ぐあぁぁぁーっ。目がぁ!! やってくれたな……小僧」


 直ぐ様コキュートスから距離を取り、壁に刺さった剣を取り出す。


「次は当てると言ったよな?」


 刀身に再び炎が宿り、護の渾身の一撃がコキュートスの体に斬りつけられた。


「神里君、良くやったわ!」


「宮本さん!?」


 仮死状態から戻った伊織が、再び呪文を詠唱。


「聖なる光よ邪を祓い不浄なる者への裁きを……セイクリッドレイン!!」


 光の矢が雨の如く、コキュートスに降りかかる。更に、追い討ちをかけ、セイントアローを解き放つ。


「うぎゃあぁーーっ!! む、娘、貴様!!」


 腹部を貫かれコキュートスはその場に倒れ込む。これで勝ったのだろうか? 伊織の凄さに呆気に取られた護、言葉が出ない……。


「み、宮本さん……あなた、凄いのですね……こんな隠し玉があったの?」


「えっ? 何の事? 私わかんなーい。てへっ」


 てへっ……じゃねーよ……と、突っ込みたいが、改めて伊織を怒らせたら怖いと感じた護。少し疲れて、座り込む二人。水を口に含み、一息入れる。


「そう言えば、マナタイト鉱石は?」


「コキュートスが食べちゃったのよね………」


 じーっと倒れているコキュートスを見つめる二人。

 どうしたものか………。


「えっ!?」


「な、何?」


 コキュートスの周りに冷気が集まり、護達に向かって来る。


「危ない」


 散開し、何とか回避したが……。


「クヒャヒャヒャッ中々だったぞ。ガキ共! かなりのダメージは負ったが、貴様らを葬る力はまだ残っておるわ!」


 見るからに体が朽ち果てそうな姿なのに、護達へのあくなき執念だけがコキュートスを支えている。


「さて、お互い体力的にもう限界じゃろ?」


「「ゴクリッ」」


「貴様らに敬意を表し、最大の冷気を持って葬り去ってやるわ」


 再びコキュートスの体が輝きだし、全身に冷気を集めだす。マジックシールドをかけても、ここからどうすれば良いのか? 二人の万策が尽きようとしている。

 コキュートスの手に冷気が一点に集まり、一気に解き放たれた。


「死ねぇーーっ、ガキ共」


 冷たく輝いた冷気は、ダイヤモンドダストを連想させるかの様な猛吹雪。

 万事休すかと思われたが。


「恥ずかしいけど……一か八か」


「宮本さん?」


「神里君、ブレスレットのダイヤルを最大にして!」


 後の事なんて考えてられない。護は言われるがままブレスレットのダイヤルを最大に回した。直ぐ様伊織もブレスレットのダイヤルを最大に回し、左手を護に差し出す。


「これ、恥ずかしいから、あんまりやりたくないけど……命には変えられない!」


「り、了解」


 護には直ぐにわかった。伊織が何をしたいのかを。右手を差し出し、伊織の左手を握る護。やっぱり恥ずかしい。


「魔力を最大まで高めて! できるよね?」


「う、うん」


 二人の足が凍りつきだそうとしているが、気にせず魔力を高める二人。護の右手には伊織の温もりが、伊織の左手には護の温もりが。二人の魔力が螺旋を描くイメージをし、交わり合う。


「今更何をしようとムダじゃ」


 コキュートスの冷気が高まり、再び絶対零度の領域に入る。


「今よ!」


「「合体魔法セイクリッドフレイム!!」」


 カーミラと戦って以来、久々に出した合体魔法セイクリッドフレイム。

 白銀の炎がコキュートスの冷気を押し返し始めた。


「こしゃくな……」


 互いの魔力がくすぶり合い、両者一歩も引かず洞窟内は激しい揺れと、熱気と冷気が混じり合っている。

 だが、決着は直ぐに着いた。体がボロボロのコキュートス、二人の合体魔法に耐えきれなくなっていた。


「ぐぬぬぬっ」


「「いっけぇーーっ!!」」


 白銀の炎が勢いを増し、コキュートス目掛けて一直線。コキュートスの体が白銀色に燃え上がる。


「ギョエェーーッ……」


 コキュートスの体は朽ち果て、マナタイト鉱石が床に転がり落ちた。護達の完全勝利、S級魔族を二人の力で振り払ったのだ。


「終わったか………」


「うん、でも、もう動けない……」


 手を繋いだまま二人はその場で倒れ込み、気を失ったが、数分後、ジールと部下達が救出に駆けつけてくれた。




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