第24話 障気の森へ

 ジブリールの地図を広げ、現在地と目的地の確認をする護達。とは言うものの、人間界よりはそこまで広くない世界であるため、方角は分かりやすい物であった。


「いい? ここから、ジブリール山脈に向かうにはね、修行場の入り口である、障気の森を抜けて登山口に入るの。森までは空を飛んで行きなさい」

 やるとは一言も言ってないのに、強制的にやらざるを得なくなった。だが、放置したら人間界が大パニックになるのと、ジブリールが崩壊してしまう。


「じゃあ、これ渡しとくから、大事に扱ってね。後、神里君、ブレスレットは君達の通貨で数百万円はするから、くれぐれも壊すなよ」


「………は、はい」


 渡されたのは、再び魔力増幅のブレスレットとマジックシェルター。このマジックシェルターは球体であり、天にかざすとコテージに早変わりする持ち運びに便利だ。シャワーや冷蔵庫、必要な食料やベッドまで完備されている。

 そして、再びブレスレットを手渡されるとは、やはりコキュートスは現時点では最強の敵かもしれない。


「ついでにこれも渡しとくね」


 ミドルサイズの袋を渡されたのだが、中身は……駄菓子だった。うんまい棒五十本、色々な味のある一本十円のお菓子と、小型のチョコ五十個、更に、おしゃぶり昆布の梅味が……。


「非常食だから、大事にしなさい! 後、水も入れてあるから」


 非常食に駄菓子はありなのか? チョコならわかるが、腹の足しにはならない気がする。

 おしゃぶり昆布に関しては、何も触れないでおく二人。


 出立の準備が完了し、エアーボードでジブリール山脈麓の森に向かう二人。エアーボードで直に行けば話が早いが、高度千メートル以上は上昇出来ない為、限界があった。


「ここか……」


「神里君、はぐれない様にね」


 紫かかった霧が立ち込める森の中、中に入る者を拒むかの様に、方向感覚を狂わせる。まさに、これが障気であろう。


「まるで、樹海ね……神里君」


「宮本さん……俺、もう疲れた…さようなら」


「冗談言っている元気あるなら大丈夫ね。さっ行きましょ」


 冗談なのかわからないが、護がいかにもこの世の別れを告げるかの様な発言。

 森の中腹に差し掛かると、霧が濃くなり神経がおかしくなり始めた。


「この森はこういう事か。神里君この障気吸ったらだめだよ」


 伊織がハンカチを口に当てながら、護に注意を促す。この森の障気が五感を狂わせ、迷い込ませる。

 確かに魔力を高める修行にはなるが、この先が思いやられる。


「面倒だな、この森燃やそう」


「何を言っているの!? そんな事しちゃダメでしょ!」


 人間界ならパッシングの嵐だが、ここは魔法の国だし、問題ないと言い出す護。

 護の手から炎が飛び出そうとした時、霧が竜巻を発生させ、一点に集中し始めた。


「燃やすとか言うから、この森が怒ったじゃないの!」


「えぇーっ!? 俺?」


 とか言い合っている間に、竜巻が護達に突進。二人は散開して回避する。まるで意思を持った様な竜巻の動きであった。


「神里君大丈夫?」


「何とか生きているよ」


 間髪入れずに次の攻撃が伊織を襲うが、避けようとしたら、足が枝に引っ掛かりもつれてしまう。


「み、宮本さん!」


 たまらずに護が伊織を抱きかかえ、思い切り横にダイブしたが……。

 ち、近い……あわや護と伊織の唇が当たる寸前。


「か、か、か、神里君……あ、ありがとう……そろそろどいてくれる?」


「わわわわわっ! ご、ごめん」


 体を起こそうとしたのだが………。ぷにぷにとした触感が。


「どこ触ってるのよ!?」


「すいません……わざとじゃないんだー」


 護の手が伊織の胸に当たっていた。

 ……や、やわらかい。

 伊織のビンタが護の左の頬にクリーンヒット。


 竜巻が更に激しさを増してきた。周りの木々をチェーンソーの如く、伐採していく。


「み、宮本さん……あれもしかしたら」


「何かな!?」


 事故とは言え、まだお怒りの伊織。竜巻が伊織の感情に反応しているとしか思えない護。


「宮本さん、少し落ち着こう。この竜巻さっきから宮本さんが怒ると激しくなっている」


 先に森に先に足を踏み入れたのが伊織。霧が伊織の姿を認識し、伊織の感情の左右で動いていたのだった。


「うっ………わ、わかった」


 深呼吸をし、無と同化する様に伊織の表情が人形の様に無表情と化した。

 ……少しだけ沈黙が起き、竜巻も動きが止まりいつもの霧に戻ろうとしている。


「よーし、そのまま、そのまま」


 そっと後退りし、手から炎を出す護。湿気あるから霧が出る。だったら蒸発させようと考えている。

 あまりやり過ぎたら、森が火事になってしまう。そうしたら、伊織の雷が……想像しただけで怖い。


 加減をしながら炎を出し霧を振り払う。

 護の読みは成功した。


「よっしゃ、霧が晴れた。宮本さんもう大丈夫行こう」


「よく、森を燃やさなかったね。エライエライ」


 護の肩をポンと叩き、先を急ぐ二人。

 竜巻により木々が伐採されていたので、視界が開け森の出口が見えた。


「ちょっとお腹空いたね……て、神里君何食べてるの!?」


「この、おしゃぶり昆布が梅の酸味効いて美味いす。宮本さんこれ絶対食べないだろうと思いまして、自分の胃の中で処分してます」


「あら、ありがとう……じゃあチョコは私が全部貰うから」


 余計なお世話だと言わんばかりに、チョコを独り占めした伊織、とりあえず休む事となった。


「マジックシェルター………天にかざせと説明書にあるね」


 森を出て山の登山口でマジックシェルターを天にかざすと、球体から光が発せられ、コテージが作り上げられていく、中に入るとベッドが一つしかなかった……。


「これ、一人用?」


「ジール様、何を考えているの……」


 二人で仲良く愛の巣を作れと言いたいのか? 呆れて物が言えない二人。


「お、俺は床で寝るから……宮本さんベッド使って」


「えぇ、そうするわね。神里君シャワー浴びてくるから、覗いたら……コロスから」


「はいはい……」


 ギロリッと護を睨み、シャワールームへ向かう伊織。

 シャワールームの扉の向こうから水が流れる音がし、あの向こうには裸姿の伊織がいる。

 や、ヤバい、想像してたら鼻血が……。


「ふぅ……さっぱりした。神里君もシャワー浴びれば? 私、その間に食事作るから」


「は、はい」


 明日に備え、コキュートスのいるジブリール山脈へ。

 食事を済ませ直ぐ様眠りについた。

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