第25話 魔の山へ
山頂で静かに待ち構えるコキュートス。何やら氷のオブジェでドラゴンを作り、命を吹き込んでいる。
「フロストドラゴンの完成じゃ。良いか? 今ガキ共がこちらへ向かっている。奴らを殺せ」
大きな翼を羽ばたかせ、フロストドラゴンは護達に向かって飛び立った。
「み、宮本さん、寒くないの?」
「普通に寒いわよ、でも進むしかないよ」
二人は山に入り、寒さと戦いながらコキュートスの元へ急ぐ。
足場の悪い崖道を慎重に進み、なるべく下を見ない様にと。この先は、はしごでよじ登り頂上を目指す。はしごを登りきると、開けた場所に出る事ができた。おそらく、ベースキャンプを張る場所ではないだろうか。
「少し休もうか」
伊織の提案で休憩に入る二人。渡された
「宮本さん、妙に静かだと思わない?」
「罠かもしれないね……」
登山をしているので、あまり口数のない二人。
先へ行こうした時、急に突風が吹き荒れる。
「ふんぎゃーーっ! ドドドド、ドラゴン!?」
「かかか、神里君、何とかして。私の出る幕じゃないから。神里君の炎魔法が頼りよ」
「へっ?」
とか言いながら、物陰に隠れた伊織。
フロストドラゴンが空中をホバリングしつつ、口を大きく開きだした。
ゴオォーッと音を立てながら、フロストドラゴンの開いた口から、青い炎なのか冷気なのかわからないが、一直線に護達に向かってブレスを吐き出す。
「あっぶねー宮本さん生きているよね? うん生きているね」
「まだ、何も言ってないんですけど……」
ブレスレットのダイヤルを回し、魔力増幅レベル2に移行。反撃と言わんばかりに護がファイヤーボールを解き放つ。
伊織が言っていた事はフロストドラゴンが、全身氷で作られているため、護の炎魔法が頼りだったのだ。
護のファイヤーボールがヒットし、フロストドラゴンの体がバラバラに砕けて、勝利かと思われたが。
「「えっ!?」」
フロストドラゴンの体が徐々に再生していく。再び何事もなかったかの様に、こちらに攻撃を仕掛ける。
「「ウソォーッ」」
二人の息がバッチリ合うかの様な反応、フロストドラゴンが再びブレスを吐き出し、してやったりの顔をし始める。
………完全に弄ばれた。
「くっそーこうなりゃ」
護が非常食のうんまい棒を数本取り出し、フロストドラゴンに投げつけた。
「これ、た、た、た、食べる? うんまい棒だけに美味いよ」
「そそ、そんな物で釣られるわけ………あったわね」
人間界のお菓子が珍しいのか? 夢中になってうんまい棒にかぶり付くフロストドラゴン。その隙に護がファイヤーボールを解き放つが。
「宮本さん、あいつ……固くなってる……」
「えっ!?」
フロストドラゴンを破壊し、再び再生をする。再生を繰り返していく内にフロストドラゴンの体が固くなる仕組みだ。
早く手を打たないと、取り返しがつかなくなってしまう。終いには指を立て、護達にかかって来いと挑発行為に出ていた。
「あのやろー……」
「神里君、再生するなら必ずそれを支える核コアがあるはずだよ。私が再生する前にそれを見つけて叩き込むわ」
伊織が核を見つけるまで、護がひたすら逃げ回る作戦。これ以上攻撃をして、体が固くなればこちらが不利となる。
「うぉーーこっちだこっち」
「神里君出来るだけ私の視界から外れないで」
「そんな、無茶苦茶言わないで……」
「ほらほら、動いて」
またもや、伊織が紫音と被さって見えた。あの無邪気な笑顔が………。
フロストドラゴンの吐くブレスをかわしながら、ひたすら逃げる護。
「…………見えた!」
伊織が目にした箇所は、フロストドラゴンの首筋に光る何かを見つけた。フロストドラゴンの核は首筋にある。やるなら、一撃で仕留めないといけない。
「神里君、見つけたわ、もう少し頑張って」
いつでも打てる様に、伊織はセイントアローを詠唱し隙を伺う。しかし、あちこち動き回っていて、狙いが定まらない。
「あーっもう! 神里君あまり動かないで」
「だから、無茶苦茶言わないで!」
どうしろと言うのだ? と言いたいが、どうしようも出来ないと目でサインを送るが。伊織は目線で………何とかしろと護を睨み付ける。
「あーっもうやけだ! 壊れるなよ。食らえサンダーボルト!!」
放たれたサンダーボルトが雷を帯び、フロストドラゴンめがけて飛んでいく。
稲光と共に、フロストドラゴンの体が感電し、動かなくなった。
「神里君、ナイスよ」
すかさず、伊織がブレスレットを回し、魔力増幅レベル3に移行。
「これで終わりよ! セイントアロー!!」
放たれた光の矢が、フロストドラゴンの首筋めがけて一直線に飛び、矢が首筋に刺さると、核に亀裂が入り、フロストドラゴンの体が粉々に砕け散った。
「宮本さん………いくら何でも、無茶ぶりじゃないですか?」
「あはははっ、ごめんごめん、私のチョコレート分けてあげるから」
ペロリとチョコレートを頬張り、水を口に含み補給完了。コキュートス元へ急ぐ二人。
山頂に辿り着くと祠があり、人が入れそうなスペースで大きく入り口が開いていた。
「うほほーい、清純メガネっ子ちゃんやっと会えた」
「えっ!!」
突然二人の目の前に、冥界の老骨エロジジィ事ハーデスが現れた。
「こんな所で何やってるんですか?」
「この前のお礼に、君達を労おうと思ってジブリールにやって来たら、えらい騒ぎとクソババァから聞いて、急いでやって来たのよん」
大体の事情はジールから聞いたと言い、コキュートスと戦う前に護達のために、魔力回復薬を持ってきてくれた。
「疲れとるじゃろ? これを飲んでね」
二人に渡されたのは小さい小瓶。人間界で売られている、栄養ドリンクのサイズだった。
「これはね……ファイトいっぱーつ! て言う魔力回復薬。さぁさぁ飲んで飲んで」
言われるがまま、ファイトいっぱーつを飲み干す二人。
不思議な味がする。
豊かな柑橘系風味と、ハーブの香りのハーモニー。飲めば飲む程、くせになる不思議な飲み物。みるみる内に二人の体力が全快。
「あ、ありがとうございます。神様らしい事してくれて」
「グヘッ、グヘヘッ。メガネの姉ちゃんに喜んで貰えてワシ幸せ」
ハーデスの顔がほころび、下心見え見え。と、言っても顔はガイコツであるが…。
「じゃあ、ワシは冥界に戻るから頑張れよーチュッ」
伊織に投げキッスをし、足早に護達の視界から去って行った。
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