第16話 伊織救出からの・・

「ち、チキショー時間が足りないどうする、さっきより氷の厚みが増している」


 コキュートスに手間取り、護の魔力も残りわずか、ひたすら炎を浴びせても、伊織が閉じ込められている氷の棺は早々に壊れない。

 ブレスレットのダイヤルを、全開に回すか悩んでいる護、長時間使うなとジールに言われた言葉が頭を過る。わかってはいるが、体はそうしろと言って手がダイヤルに行き出す。


「やるしかねー」


 再びダイヤルを最大に回し、渾身のファイヤーボールを解き放つ、業火に包まれ、氷の棺は徐々に亀裂が入り出すが、護の魔力と体力、忍耐力の勝負となった。

 ミシミシと徐々に亀裂が入る音が鳴り、氷の棺が徐々に欠片となり始める。


「も、もう少し…………くっそー何で俺はこんな事しているんだ、こんな人生送るはずじゃないのにな………」


 熱が氷を徐々に溶かしてきたが、護の炎の勢いが弱まり出した。


「や、やべーぞ、これは」


 段々と意識が遠のいていく……眠い……布団に入りたい………ゲームしたい………今週の漫画雑誌まだ読んでなかった……。

やりたい事が走馬灯の様に駆け巡り、護はその場に倒れ込んだ。


「……君……………神里君………」


「誰だよ、眠いから寝かせてくれ……」


「…信じているよ……神里君…」


「み、宮本さん?」


 護の夢の中に問いかける少女、伊織そっくりな少女、いや、むしろ、伊織本人だった。

 何が何だかわからないが、温かい光が護を包み込む。優しく微笑む伊織、夢の中とは言え、護の手を優しく握ってくれている。


「はっ! やべ………意識飛んでた………」


 目が覚めると、伊織は氷の棺に閉じ込められたまま。残り時間が、十分となり始めた。


「まさかね………ハハハッ」


 氷の棺から、伊織が護に魔力を分け与えてくれた気がした。


「やってみるか……」


 魔力増幅最大。護は今、伊織と同じ事をしようとしている。


「我が魔力………剣となりて………具現せよ」


 護の手から一本の剣が現れた。

 魔力の具現化により、作られた剣、その刀身は炎を纏い、業火を放つ。


「もしかして、氷なら冷気の剣、雷なら雷の剣が出来るのか?」


 護の推測通り、護が作り出した具現した剣は、属性により変化する。今回は氷に閉じ込められた伊織を助ける為、無意識に炎の剣を作り出した。


「いっけぇーーっ」


 振りかざした一撃は、氷を真っ二つにし伊織を傷つけず、救出に成功。慌てて、倒れこみそうになる伊織を支える護。


「……ん? 神里君?」


「大丈夫? 宮本さん」


「君ならやれると信じてたよ」


 そう言って伊織はうなだれ、意識をなくした。かなり、衰弱し、体温が下がっている。

 急ぎ荷物の中から、カイロを出し、伊織の胸元に入れ、護が着ていた防寒着を伊織に着せる。

 ………ゴクリ…………カイロを胸元に入れる間際チラリと伊織の下着が見えてしまう。護の中で、この非常時に天使と悪魔が格闘している。それでも、護は欲望に打ち勝った。万が一見えても、それは事故だと言い聞かす。


「無事で居てよ……宮本さん、目の前で死ぬのは目覚めが悪いから」


 伊織を抱き抱え、脱出しようとしたのだが。


「ホホホッ、小僧、中々面白い事をするのぉ………」


 コキュートスが起き上がり、一部始終を見ていたと言うが、コキュートスも手負いの状態となっていた。


「今回は、わらわの負けじゃ……大人しく引き下がってやる……じゃがな、必ず復讐してやるぞ」


「げっ、俺はか弱いんだよ、怖いからやめてくれない」


「却下じゃ、お前はわらわにとって、危険じゃ、だから、死ぬまで貴様を追い詰める、じゃあな」


 怖いセリフを言い残し、姿を眩ましたコキュートス。護にも安堵の表情が伺えた。


「うぎっ、い、痛ってぇーー体中が痛い」


 ブレスレットの副作用、未熟な者が最大まで増幅レベルを上げると、見返りとして体が鉛の様に重くなり、全身が筋肉痛となる。


「だから、扱いには気をつけろと言ったでしょ……」


 見るに見かねたのか、ジールが護の元に駆け付けた。


「見てたわよ、コキュートスを退けるとはやるわね」


「見てたなら、助けろよ………」


「前にも言ったけど、これは人間界の問題、あなた達がやらずして、誰がやるの?」


「面倒くさいだけでしょ?」


 ………………ギクッ。

 何て鋭い子なんだと、冷や汗を滴たらしながら、護を観察する。


「さっ、早く戻って伊織の治療よ」


 逃げたな…………と、白い目でジールを見つめる護、ジブリールに戻り伊織の治療と、ついでに、護を労う前提でジブリール特製温泉を提供する。すっかり体も全快し、伊織も意識を取り戻した。


「神里君、今回は大活躍だったね、ありがとう……」




「い、いえ…………どういたしまして……」


 何か恥ずかしい……初めて、女の子に面と向かってありがとうと言われた、ジールはそれを横目でからかいの眼差しで見ている。


「あっ、ブレスレット返さなきゃ」


 壊れている………。

 やばい、どうしようか? このまま黙ってるか、素直に謝るか、どっちにしてもジールのからかいの眼差しが…………ムカつく。


「神里君、快気祝いの麻雀しようか」


「はぁっ?」


 半ば強引に、麻雀やろうとか言い出すジール、護はオンライン麻雀とかやるからルールは大体わかるが、メンツが足りず伊織も強制参加、ルールがわからない伊織だが、ルールブックを確認し、瞬時に覚えた。後一人はと言うとラミアだった。


「二人共、今回はありがとね、私立派な教師目指すから、後、神里君、悩み事があったらお姉さんに相談してね」


 妙に色っぽいラミア姉さん、護に耳打ちする吐息が当たる。

 どこから用意したのかわからないが、全自動麻雀卓を用意するジール。静かに牌が並べられ、ジールの親番からスタート。


「そう言えば神里君、ブレスレットは?」


「あ、あれ………返しますよ、返しますとも、この対局が終わったらね…………その白、ポンッ」


 麻雀は脳の活性と、コミュニケーション取るには良いらしいね、と、伊織とラミアは和気あいあいと牌を切る。


「まさか、壊してないわよね?リーチよ」


 ………ドキッ。

 もしかして、バレてる? しかも、ジールの手牌はテンパイしているが、護も黙ってテンパイ、通称ダマテン。


「てゆーかさぁ、壊したでしょ? ブレスレット、怒らないから正直に言いなさい、後、神里君が振り込んでくれたら、私もっと嬉しいんだけど」


 この野郎、壊れたブレスレットをネタに自分のあがり牌を切れと強要してきやがった。どうする? ジールのあがり牌がわからない、完全に俺をカモにしてやがる………と、護の心の声。


「宮本さんを助ける為だったんだ、仕方ないだろ………」


 そっと壊れたブレスレットをジールに差し出す。 


「あっ、私もリーチ」


 今度は伊織が追っかけリーチを仕掛ける、ブレスレットに関しては拝おとがめがなかった。むしろ、伊織の追っかけリーチで焦りだしそんな事は忘れていた。


「ねぇ、神里君…………私のあがり牌、捨ててくれる?」


 伊織まで護に強要し出し、助けてやった恩はどこへやら。


「あっ、ごめん、やっぱいいよ、ツモ」


 伊織のあがり役を見たら…………。


「み、宮本さん、それ…………四暗刻スーアンコウ役満なんですけど…………」


 どんだけ引きが良いんだ、まさかの四暗刻をぶちかますとは、むしろ、ロン上がりして貰った方が役は三暗刻で、被害は少なかった。その後、伊織の一人勝ちによりぶっちぎりのトップで対局終了。

 そして、人間界は気候が普段の通りになり、暖かい日々を迎えた。


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