第15話 対決コキュートス

 先へ進む毎に、冷気がどんどん濃くなっていく。コキュートスの居場所が近い証拠であろう。


「うっ、さ、寒すぎ」


 護は急ぎ荷物から防寒着を着用する。気を取り直して先へ進むと、氷の棺に閉じ込められている伊織が居た。


「み、宮本さん………」


 微かだが、伊織の鼓動を感じ取れた護、確証はないが伊織を助けるにはまだ時間はあるし、助かる見込みはある。

 だがしかし、コキュートスに見つからず助ける方法が見つからない。


「このまま、お持ち帰り…………て、わけには行かないな」


 試しに、ブレスレットのダイヤルを一周回して見た。


「う、うぉーーッ」


 体中に何か熱く流れ込んでくる、血が駆け巡る様に。 

 試しに、氷漬けとなった伊織にファイヤーボールを当ててみたが、威力は確かに増してはいるが氷の棺を溶かすまでには至らなかった。


「それなら、最大まで回すか」


 最大までブレスレットのダイヤルを回し、再チャレンジしたが、今までにない業火が飛び出し伊織を包む氷の棺に亀裂が入り出す。


「中々面白い事をしているな! 小僧」


 背後にコキュートスが現れ、護も咄嗟にブレスレットのダイヤルを元に戻した。

 すかさず、コキュートスが冷気を放ち伊織に向かって解き放つ。


「おいっ、何をした?」


「魔力増幅アイテムを持っているとはな……念には念を入れて、そこの娘の命を後三時間に縮めてやったぞ」


 完全に打つ手を断たれた護、コキュートスを退けなければ伊織は助からない。


「小僧、どうじゃ? わらわの部下にならぬか? そうすればその娘を助けてやらんでもないぞ」


 弱いとは言え、護の炎が厄介なコキュートス。護は取引に応じるか迷いだしている。

 敢えて仲間になる振りをして、伊織を助けて貰うか、このまま戦うか……………。


「選択肢は一つ」


 護が周囲の氷を砕き出し、天然水のかき氷をコキュートスに提供する。


「取り敢えず、話そうか……ここの水は名水と呼ばれ、その氷で作るかき氷は絶品」


「ほほぉ、知らなかったわ」


「彼女を解放しろ、そうすればこのかき氷を幾らでも作ってやる」


「わかった、じゃが、先に食わせろ。わらわの喉がそいつが欲しくて欲しくて、たまらんのじゃ」


 やはり、S級魔族このくらいでは動じない。護は先にかき氷を差し出すと、次なる手を考えている。


「この輝き、たまらんのぉ、わらわはマイシロップを持ち合わせておるのでのぉ、やはり、王道のイチゴシロップかのぉ」


 この野郎、余裕こきやがって……と護の心中はそう語っているが、口に出したら伊織の寿命が縮み兼ねない。


「んんーたまらんのぉ、実にたまらん…て、小僧お代わりじゃ……て、おい貴様何を食っている?」


 コキュートスが目の当たりにした光景、それは、護が寒さに耐えられず、思わずカップ麺を口にしていた。


「わらわの前で、その様な物を食うでないわー」


「そりゃ、悪かった……うぉーっと手が滑った」


 バシャーーン! 護がわざと手が滑ったと言い、カップ麺の汁がコキュートスの顔面にもろにヒット。


「うぎゃあぁぁぁ………こ、小僧……わざとか?」


「スイマセーンワザトジャナイヨ」


 ハナから伊織を解放するつもりはないと睨んだ、とにかく今はコキュートスの隙を探して反撃のチャンスを待つ。


「このブレスレットも長時間使い続けたら、体が持たないな、使い所に気を付けないとな」


 コキュートスの表情を伺いながら、ブレスレットのダイヤルを調整し魔力を高めていく護。


「こ、小僧………この娘の命が惜しくはないのか?」


「助ける気など更々ないよな?」


 この小僧………弱いくせに肝が据わっている、コキュートスの表情がそう語っている。

 既に時は三十分経過、伊織の命も後二時間半、焦ったらダメだと護は自分に言い聞かせる。


「小僧、それで、わらわの元に付かぬのか?」


「答えは、却下だ、色白女、てゆーかさぁ、そんなに白いと、血の巡り悪いんじゃない?」


 護の周りにファイヤーボールが纏わり出し、激しく回転し始める。ブレスレットの効果で、大きさも、回転の速さも増している。


「小僧、そんなに死にたいなら、望み通りにしてやるぞ」


 対抗し、コキュートスが冷気を放つと、護も魔力増幅したファイヤーボールで応戦。

 互いの魔法がぶつかり合い相殺する。


「小僧、前にも言ったが、わらわを倒したくば、わらわを上回る魔力を持てと」


 魔力が増幅したとは言え、まだ二周回した程度、余裕の笑みを浮かべるコキュートス、それでも護は全弾発射した。


「無駄だと言うのに………」


 全弾全てを相殺するが、コキュートスの放つ冷気と護の放つ熱気で、水蒸気が砂煙を起こす様に発生している。水蒸気が晴れると、そこに護の姿は居なかった。


「小僧、どこへ行きおった?」


 しばしの沈黙が流れ、コキュートスの背後に立っていた護。不意を突くファイヤーボールが、二発コキュートスに命中する。


「魔力増幅、レベル3」


 ブレスレットのダイヤルを更に一周回し、さっきより威力の増したファイヤーボール、続いて先ほどのカップ麺の汁を頭にかけだした。


「ぎゃーーーーー目が、目がーーー」


「スパイス大量に入れたからな、沁みるし、痛いぞ」


 よくある、カップ麺に付いているお好みで入れるスパイスを大量に入れたドSな行動、とても飲めた物ではない。


「初めてじゃよ………下等な人間にここまでコケにされたのは…………許さん! 許さんぞーー小僧、じわじわと恐怖を与えてくれるわ」


 完全にお怒りモードのコキュートス、冷静さがどこへやら、護の狙いはそこだった。

 コキュートスをおちょくるだけおちょくり、冷静さを欠けさせる作戦。コキュートスの髪が逆立ち、護に冷気の嵐を浴びせるが、護も炎で何とか防いでいる。


「あんだけ、クールぶって、頭に血が上ってるぞ。こりゃお湯でも沸かせるのかな」


「調子に乗るなぁー! 小僧」


 護の前に氷柱が発生、間一髪回避し護は、すかさず地面の氷を溶かし始める。


「貴様、何のつもりじゃ?」


「さぁね………自分で考えな」


 地面の氷が完全に溶け、水浸しとなった。

 かかとまで浸かるくらいの水位となり、護の脳内に新たな魔法が流れ込む。


「純水は電気は通さないが、この地面の氷は不純物を含む、食らいやがれーサンダーボルト」


 水を伝って、電流がコキュートスに向かっていく、ブレスレットの効果なのかは謎だが、護に新たな魔法サンダーボルトが生まれだした。


「こしゃくな……」


 コキュートスも直ぐ様、電流を閉じ込めるかの様に水を凍らせる。


「残念じゃったのぉ、小僧………」


「あぁ、非常に残念だな…俺の負けだ……殺せよ」


「ホホホッ潔いのぉ、わらわは潔い奴が大好きじゃ」


 じりじりと爪を尖らせ、護に近づくコキュートス、伊織を救出出来ずに護もやられるのかと思いきや。


「魔力増幅レベル4、油断しすぎじゃね? 色白女」


 更にダイヤルを回し魔力増幅、護の手からファイヤーボールがさっきより大きさが増し、地面に解き放つ。解き放たれた魔法が、再び氷を溶かし始め、さっき放ったサンダーボルトがまだ生きていた。


「感電しろー」


 今一度サンダーボルトを放ち、今度はコキュートスに命中、魔力が増幅している為、今度はコキュートスに大ダメージを負わせる事ができた。


「ふ、不覚じゃったわ…………」


 コキュートスはその場に倒れこみ、暫く動かなくなった、今の内に伊織救出に取り掛かる護。伊織の命は残り一時間になっていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る