第12話 俺要らなくね


 コキュートスの手下を追い払ったのはいいが、やはり、まだ寒さが続く。


「二人共お疲れ様、紅茶淹れたから温まってね」


 人の家に勝手に上がり込んで、何を言っているのやら……しかも、人の家のティーセットを勝手に使ってる。幸いまだ、ライフラインは生きているのが救いだった。


「ジールさん、宮本さん凄いね……」


「B級魔法使いだからね、君とは経験の差が違うわよ」


「俺、要らなくね?」


 伊織とジールが揃って思った………こいつ、ねたなと。


「神里君、君は一億で買われた事忘れてない?」


「どうでも良いよ………どうせ、死ぬ運命だったから……」


 ジールが、護の肩を掴みながら言ったが、逆効果であった。


「ジール様、ダメですよストレートに言っちゃ」


「じゃあどうするの? 伊織、このままだと、あの子、あのままよ」


 小声でひそひそ話するジールと伊織、護は我関せずとゲームをやり出す。


「神里君が居なかったら、私危なかったのよ、カーミラや、今回のゴーレム、神里君の魔法がなかったら、私どうなっていたか……」


「………………」


 伊織の涙ぐんだ、天使の眼差し作戦、心底護は揺れ動いたのだが。


「宮本さん、目薬使ってどうしたの? ドライアイ?」


 嘘泣きがバレた、今度は真面目に学校の勉強と魔法の書き取りを黙々とやり始めた。急に真面目に勉強をやりだし、何かの前触れか? 二人はじっと護を見守っているだけ。


「神里君、今欲しい物ない?」


「……………」


「コキュートスを倒さないと、あなた達の世界はこのままだと、氷河期を迎えるわよ、好きな事も出来ないのよ」


 ジールが怒りを我慢して、護を説得する。


「神里君、私はね、皆で学校を卒業したいの、だから、神里君が居ない学校生活は、私は嫌だな……」


 今度は伊織が、護の手を握り再び説得に入る。


 伊織から本当の涙が流れだし、流石の護も今回は折れた。そりゃそうだ、クラスの集合写真で片隅にポツンと自分が居るのは避けたいから。


 護のご機嫌取りも終わり、気がかりな事が魔界の王が死に、今の魔界がどうなっているのか?異世界交流法はどうなっているのか?


「ラミアに、話を聞いてみますかな……誰の為でなく、自分の為だから」


 とは言うものの、あの天使の様な眼差しで見られたら、惚れてしまうだろうと、自分に言い聞かせた護。


「神里君て、時々冴えてるよね……」


 普段はのほほんとしていて、たまに、頭が冴えてる護に対し、伊織の護への印象が若干変わっていた。


「あら、神里君に、宮本さん」


 ジブリールに着くと、ラミアが二人をお出迎え。


「今の、魔界の状況と異世界交流法? 私の知っている事で良ければお話ししますわよ」


「お願いいたします」


 二人は頭を下げて、かしこまる。


 先ずは魔界の王を決める話から始まった。三年に一度、魔界の王を決める大会が行われ、知力、武力、カリスマ性、それらを兼ね揃えた者が優勝となり、魔界の王となる。異世界交流法を作った魔界の王が、長年君臨していたのだが、昨年亡くなり魔界の王を決める大会も今は行われていない。それだけ、亡くなった魔界の王のカリスマ性が凄く、誰も王を越える者が現れないらしい。


「それで、魔界の王は死ぬ間際に、遺言として異世界交流法は継続して欲しいと、辛気臭い魔界を明るくしたい、それが、魔界の住人全ての望みだったの」


 ラミアの表情が一段と暗くなり、まだまだ話は続く。


「でもね、それを利用して、人間界で悪事を働こうて魔族が増え始めたの……要はバレなきゃ良いて考え」


 このまま放置したら、魔族のやりたい放題。魔界の問題に人間が干渉する事ではないが、神魔町を脅かす、コキュートスを何とかしないといけない。


 ガタンッと急に物音が、ジールの城に侵入者が現れた。


「ジール様、敵が城内に侵入致しました」


「対魔族結界を張ってあったのにどうやって?」


 突然、部下の影が物体となり、その姿をあらわにした。


「どうもぉ、コキュートス様の使いです、先ほどはうちの身内が世話になりましたねぇ、あっ申し遅れました、私、コキュートス様の右腕のフロストと申します」


 結界を影に潜めて、結界を抜けたと言うフロスト。コキュートスの右腕だけあって、おそらくフロストはA級かB級魔族だろう。身内が誰に倒されたか確認に来たフロストであった。


「こんな、ガキ共にやられたのか………まぁ、いいさ、目的は後一つ」


 フロストの手から魔方陣が放たれ、ラミアに向かっていた。


「うっ………きゃあぁぁぁ」


「妹が会いたがってますよ、ラミアさん」


 魔方陣に囲まれたラミアが、どこかに飛ばされ、護達の視界から消えてしまった。


「宮本さん、あいつ、何か嫌い」


「私もよ、ちょっとイラッと来ちゃった」


 何の合図もしてないないのに、二人の息が合い左右から魔法を放つ。


「うわぁーお、危ないなぁ」


 どこから出したのかわからないが、フロストが鎌を取りだし、二人の魔法をあっさりと打ち消す。


「居ない、どこ行きやがった」


「神里君後ろ」


 いつの間にか、護の背後を取ったフロスト、フロストの一撃が護に襲いかかるが、護は咄嗟にファイヤーボールを繰り出し、フロストの攻撃を相殺したが、直ぐ様フロストが影に潜り込んだ。


「食らいなさい! 化け物」


 伊織のホーリーボールを、自分の影に解き放ち、見事命中、以前に言っていた気配を読むに長けている事が役に立った。


「いったーい……お嬢ちゃん………猫になってろー」


 フロストが鎌を時計回りに振り回すと、催眠術に掛かったかのように伊織が…………。


「…………ふにゃーん、ゴロゴロ」


「宮本さん………て、えっー」


「にゃー、にゃー」


 催眠術により、猫になってしまった伊織、護に抱きつき、スリスリし始める。いい匂い…………そして、柔らかい。伊織の胸が護に当たり、護はタジタジ。


「ふにゃーん」


 最後は護を引っ掻き、毛繕いをするように自分の手を舐め始める。


「ぷぷっ神里君、伊織は私は見るから、そいつ何とかして」


「ジールさん、あんた………半分楽しんでるな」


 人の苦労を知らず、笑いを堪えるジール、フロストも恐らく護より、伊織の方が厄介と判断したから。


 あちこちに、影から影へ移動するフロスト、厄介なのは、伊織を猫にしてしまった催眠術。


「面倒くせーな全く……」


「アチ、アチ、アチィー」


 護のお得意の地雷式ファイヤーボール、探すのが面倒だから、地面全体に熱を加え、見事に護の策略にハマった。


「神里護の特製地熱サウナはどうよ?」


 耐えに耐えられず、姿を現したフロスト、こいつは本当に上級魔族なのか?、護一人でも何とかなりそうな予感。


「熱すぎて、火傷するじゃないか、危ないなー」


「悪かったな、じゃあ、冷やしてやるよ」


 今度は地面に冷気がほどばしり、液体窒素並みの温度と化した。当然、冷たいどころか…………痛い。


「痛い、痛い」


 護に良いように弄ばれたフロスト、ついに戦意を失い、ジールの部下に取り押さえられ、伊織も正気に戻った。


「あ、あれ? 私…………」


「伊織あなたは、催眠術で猫にされてたのよ………それを、助けたのが、神里君よ、いやぁ良いもの見せて貰ったわ」


 状況説明してくれたのはいいが、からかい半分のジール。猫にされてたとは言え、護にした行為に恥ずかしくて、顔も合わせられない。


 むしろ、忘れろと言い寄って来る始末。




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