第11話 コキュートスの魔の手
周りが氷だらけの地下洞窟、神魔町にこんなスポットがあろうとは。
「心地良いのぉ……一年中冬なら良いのに」
コキュートスがその地下洞窟に籠っていた。白い着物に、雪の様な白い肌と、氷の様に冷たい眼差しを持った、まるで昔話に出てくる、雪女の様である。
「コキュートス様、ラミア姉さんがあれから行方がわかりません。カーミラも何者かに倒された模様です」
コキュートスに話しかける魔族、これまたラミアと同じ種族であった。
「ナーガ、あなたの姉は、わからずやね。人間界を我が物にしてしまえば、わらわの動きたい放題じゃ。異世界交流法など、くだらぬ」
魔族は魔族らしく、人間界に恐怖と混沌を与えれば良い、そう言いたいコキュートス。そして、手下として従うラミアの妹ナーガ。
季節は桜が散り、新緑を迎える時期だと言うのに、気温が冬に逆戻り。ついこの前までぽかぽか陽気だったのに、TVのニュースも、そのニュースばかりであった。
「護、寒いし、灯油代勿体ないから、火をつけて、外で焚き火するから」
息子を一億円で売って、何を言ってるこの母親は………。この異常気象は、間違いなくコキュートスの仕業であろうと確信した。
「お兄ちゃん、部屋に女の人がいるよ」
莉央の呼び掛けに、部屋に行く護、嫌な予感しかしない。
「ハロー神里君」
やはり、ジールだった、直ぐに伊織も護の部屋のクローゼットから現れた。
「み、宮本さんまで……」
「神里君、言いつけ守ってくれるのは良い事なんだけどさぁ………何かしら? これは」
ジールが毎日やるようにと課した、魔法の書き取りノートを護に見せる。
「空を自由に飛びたいから、エアーボードの魔法の書き取りと、絶対的幸運が欲しいから、ハッピーマテリアルの魔法ですが」
「夢があって、いいわねぇ、けど……なめてんのか? 小僧……」
ジールが怒っている所、それは、ここ一週間書き取りの魔法が、エアーボードとハッピーマテリアルしか書いていないのだから。
「スポーツもそうだけど、反復練習て大事ですよね?」
………ガツン!
ジールの怒りの鉄拳が、護に炸裂。
「こんなんで、レベルアップ出来るわけないでしょ! 何考えているの君は、コキュートスとの戦いが控えているでしょ」
ジールのお説教タイムが長々続き、正座させられる護。
「あのぉ………ジール様……外を」
伊織が何かを見つけ、外に指を差すと氷のガイコツが巨大なゴーレムを操っていた。
「アイススケルトンね、D級魔族だけど、厄介なのは一緒にいるゴーレムね」
人間には見えていないので、コキュートスがこの異常気象を起こし、アイススケルトンとゴーレムが生まれ、アイススケルトンがゴーレムを操り、町を徐々に氷河期にしようと企んでいた。
「二人とも、私も人間界に季節が巡って来ないと困るわけだから、花見とかしたいじゃないのーだから、よろしく」
良いように丸め込まれ、スケルトン討伐に向かう二人。
ジールはと言うと、護の母親と鉢合わせとなり、呑気に二人でお茶を飲んでいた。
「コキュートス様、見せしめにこの町を、氷漬けにしてやりますぜ。さぁやれ、ゴーレム」
ゴーレムの腹部から、冷気が溢れだし、町の気温が段々と下がっていく。それを阻止するかの様に、タイミング良く護のファイヤーボールがゴーレムに命中。
「何者だ?」
「曲者だ」
アイススケルトンの問いかけに答えた護、正直寒さで体があまり動かない。
「テメージブリールの手の者か! 悪いが、コキュートス様によって生まれたこの命、むざむざ、やられるわけには行かねーな」
「こっちは、寒い思いしてるのに、このやろー、宮本さん、このガイコツ野郎は俺がやるよ」
「神里君、ゴーレムに勝てないとか思ったでしょ?」
何か妙に頼もしく見える護だったが、ゴーレムは自分より実力のある伊織に任せようと、魂胆がバレバレ。
アイススケルトンが不意討ちと言わんばかりに、剣を振り回し、護は何とかギリギリ回避。
「危ないなー刃物を人に向けちゃダメって教わらなかったか?」
「うるせー、俺は魔族だからな、知った事か」
護が身を守るように、体の回りにファイヤーボールを三つ出すと炎が護の回りをぐるぐると回りだした。それは、まるでバリアを作る様に、今、自分に出来る事を必死でやるだけ。それはとにかく、目の前の敵を倒す。
「さぁ、来てみろよ」
「ぐぬぬ」
動くとファイヤーボールが飛んでくる、迂闊に動けないアイススケルトン、しかし、護から近づきだし始める。無謀なのか、自信があるのか、アイススケルトンはじりじりと後退りする。
「テ、テメー」
「やはり、火が苦手か………」
後退りし過ぎて、うっかり転倒したアイススケルトン。そこを護が容赦なく、体に回り出しているファイヤーボールを全弾発射。護の卑劣な、いや、計算した戦略により、アイススケルトンを撃破、ゴーレムを相手にする伊織の元へ。
伊織は距離を保ち、ゴーレムの出方を伺いながら、ホーリーボールを放つ。
「流石に、固いわね……」
伊織が魔法を放つと、対抗してゴーレムも、冷気を発射。まるで、伊織の魔力を感じ取って動いている。
タイミング良く、護がファイヤーボールを背後から打ち放つと、ゴーレムは護の魔力に気づき直ぐ様応戦。
「あっぶねー、宮本さん大丈夫?」
「神里君こそ、大丈夫?」
今ので何か閃いた伊織、ゴーレムは間違いなく相手の魔力に反応し、腹部から冷気を解き放つ。その後、約二秒程硬直状態になっている事を伊織は見逃さなかった。
「神里君、私に考えがあるの、ゴーレムを惹き付けてくれる?」
「う、うん」
護がゴーレムを惹き付けて、魔法を放ち、ゴーレムは護にめがけて、冷気をひたすら発射。普段の動きは遅いのに、魔力を感知するとカウンターを浴びせるが如く、異様に動きが速なる。
「我が魔力、弓矢となりて具現せよ」
伊織が呪文を唱えると、光魔法が弓と矢となり、光の魔法弓が現れた。
「宮本さん、よっ、伊織様、流石」
「からかってないで、集中して」
「はいっ………」
伊織の魔力が弓に集中され、髪が逆立っている、あまりの威圧感に護も、何も言えずにいる。
「神里君、私の前に来て魔法を放って」
言われるがままに行動開始、ゴーレムのカウンターが炸裂。二人共左右に展開し、ゴーレムが硬直状態となった。
「食らいなさい、セイントアロー!」
伊織から放たれた、光の矢がゴーレムの腹部を貫通し、ゴーレムを粉砕した。
「伊織、魔力の具現化まで出来たのね、これは驚きだわ」
水晶玉で護達の戦いを見ていたジール、伊織の戦略に絶賛していた。魔力の具現化は、B級クラスから使用出来るが、それなりの精神力が必要とされている。神社の娘だけあって、そういった精神面は普段から鍛えられていたからこそ、出来たのだった。
「とりあえず、戻りましょ」
「は、はいっ」
改めて伊織の凄さを痛感した護、正直、俺要らなくね? と思ってしまった。
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