彼岸花に足りないもの

 私は一面の赤い花々が咲き乱れるのようなおびただしい死体の中にいた。すべて自分が殺した魔物たちだ。その景色に私は名前をつける。




「彼岸花」




そう名付ける。こんなに力強く生き生きとした様、そして躍動感あふれるばかりの線の集合体が花のように見えたことからこの名前を選んだ。




 その見事さと数多の生の犠牲の上で完成した作品であるため、私はこれを秀作と感じる。




だが、まだ何かが足りない。それを故に最高傑作には成りえなかった。その足りない何かが何なのか考える。




 彼岸花という作品を目前にして、考える。ふと、死んだ魔物達の顔を見て気付く。こいつらに守るものはあったのか。




こいつらは、ただ攻めるだけで守るものなどなかったのでないか。それ故に、これほどの多くの線を描いても、最高傑作に成りえなかった。




やはり、暇つぶしではこの程度が限界か。そう私は思う。




ならばこそ、守るものがあるものたちが、己の生をかけて、血で血を洗う争乱が見たいのだ。




成ればこそ、人は己の限界以上の力を発揮し、華々しくなる。その花々たちが作品をより一層引き立たせる。




その花の散り際に、絶望と言う色が色づけされて、完成する。




それこそが私の中での最高傑作に成りうる可能性を秘めている、そう痛感するのであった。




 まぁ、しかしこの作品も乙なところもあるし、まぁ風流ではある。そう感じながら、私は城へと戻っていくのであった。




城につくと、リンとアテナが出迎えてくれた。そして、リンが




「ラン様、どこに行ってらしたのですか?」




そう問おうてきたので、




「ああ、ちょっと散歩に出ておった。」




と答える。その答えに納得したのか、




「そうですか。」




と言う。



そんな、まったりとしていた我々に、突如リリスが血相を変えて部屋の中に入ってくる。




「どうした、リリス、そんなに慌てて。」




リリスは呼吸を整えてから、




「殲滅軍の伝令からの連絡で、ま、魔王軍の残党が、一匹残らず死んでいました。」




信じられないといった顔をして、話すリリスに、私は、




「ほぉーー、それはすごいのーー。」




と驚いた表情を見せるのであった。

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