堕天使なオネエとオタクなわたしの恋活七日間 〜何でもしますとは言ったけど推しを人質にされてしまっては仕方がない〜

海荻あなご

プロローグ


「アイツってオタクなんだろ? 女子でオタクとか、ちょっとないよな」


 クラスメイトの男子が言い放った言葉に続けてどっと笑う声がする。


 割と少女漫画とかによくある展開だと思う。

 移動教室の後やお昼休み、または放課後に教室へ入ろうとしたら聞こえてきた話題が自分のことだったってやつ。

 クラスの誰々めっちゃ可愛いよなーからの、ところでアイツはどーよ? っていうアレ。


 まさかそれが自分の身に起こるなんて思わなかったよ。


 そうなの。

 彼らが言っている“オタクなアイツ”というのは私のことなんだ。



 漫画みたいに泣きながら走り去るというのは悔しい気がして、何も聞いてませんよ私本当に何も聞いてませんいつも通りですって体を装って教室に入れば。

 さっきまで私のことを笑ってた男子たちは『ヤベ、聞かれた?』って顔をして、私の方をチラチラ窺い見てくる。

 私は精一杯その視線にも気付かないふりをした。



 ────そんなの気にするくらいなら、最初から嘲笑わなきゃいいのにさ。



 自分が“モテない”部類の女子であることくらい分かってたよ。

 だから告白するなんて考えてもなかったのに。


 ただ、本当に見ているだけで。

 同じ空間にいられるだけでよかったんだよ。

 

 私を話題にして笑う声を聞いた瞬間。

 誰にも言ったことのない密かな私の恋心はバリーンと弾けてしまった。



 この時の衝撃は、二十二歳になった今でも忘れられない。


 私の心の奥深くに突き刺さった棘。

 ずっと抜けない棘として、今も残ってる。



 ────だと言うのに。

 妖艶な紫髪の堕天使オネエが私に言うワケよ。


「アナタ、アタシのために彼氏作りなさい」


 しかも某カジュアルブランドと好きなゲームがコラボした時に買ったVネックのニットワンピースを着て。

 それが悔しいくらい似合うのがムカつくし(あと太ももが眩しい)、ていうか大事にしまっておいたやつなんだけど!!


 そりゃ確かに『何でもする』って言ったよ。

 でも彼氏イナイ歴=年齢アンド恋愛トラウマ持ちの私には、ちょっと無茶だと思いませんかね。

 推しさえいれば、私は幸せなのに。


 ていうか堕天使って、何って?

 うん、私も分かんない。


 一先ず分かっているのは、オタ充するために取った七日間のお休みが台無しになりそうってことくらいかな。

 

 本当なら今頃は、明日から始まるイベントに思いを馳せ、積みゲー積み本消化計画を立てていた筈なのに。

 あの本にさえ出会わなければ────!

 私は今朝の私を恨みつつ、その時のことを思い返していた。

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