第2話 憧憬の原点


 村の中心に造られた、円形の闘技場。

 そこでは、4年に一度の大会が行われていた。


 良く通る声をした若者が、拡声石と呼ばれる声を大きくする石を片手に叫ぶ。


「それでは、Dブロック、開始!!!」


 若者が叫んだ瞬間、フィールド上にいる二人のモンスターが、ミミックに向かって魔法を放つ。


竜巻メガウィンド!」

津波メガウォーター!」


 まるで照らし合わせていたかのように、絶妙なバランスで重なった魔法は、ミミックを吹き飛ばすには十分すぎる威力を持っていた。


「ぐほぁーー!!」


 なす術もなく、開始と同時に場外リタイヤ。

 それを一頻ひとしきり観客選手共々笑ったところで、勝負が始まっていく。


 最早お馴染みの茶番だった。


 そんな中僕は、が場外へ飛んでいくのをじっと見ていた。

 この光景を初めて見た時、僕の中に浮かんだのは素朴な疑問だった。


「ねぇお母さん」


「なぁに?ミミちゃん」


「なんで、ミミックはこんなによわいの?」


「…」


 お母さんは僕を無言で抱きしめた。


 お母さんは答えてくれなかった。



 ***



 僕には友達がいなかった。と言うか、友達になってくれるモンスターがいなかった。

 だから、僕はいつもお父さんとお母さんから御伽噺を聞いたり、職場の道具屋にある本を店主から借りて読んでいた。


 ある日、御伽噺に出てくる魔王に憧れた僕は、特訓をする事にした。

 特訓場所は、村の近くの山。普通のモンスターだったら30分も有れば登りきれるくらいの小さな山を、僕は何度も休みながら1時間かけて登った。

 頂上からの景色は、僕の一番のお気に入りになった。


 それから数日後、僕の特訓を聞きつけた村の子供達が僕を冷やかしに来た。

 僕がいつも通り山を登ろうと村を出ようとすると、3人のモンスターが話しかけてきた。


「おい。ザコ」


「な、なに…?」


 驚きにどぎまぎしつつ振り返ると、ニヤニヤと変な笑みを浮かべながら、2人目のモンスターが、


「お前、あの山に登る特訓してるんだろ?」


「うん」


 そして3人目が、


「じゃあ、俺たちが手伝ってやるよ!」


 といった。



 ***



「や、やっと着いた……」


 ぜいぜいと荒く息をしながら、僕は遂に頂上まで登ることができた達成感を感じていた。

 結構登るのにも慣れてきたかなと思っていたけど、今日は石が飛んできたり、よく分からないモンスターに追いかけ回されたりしてすごく時間がかかった。


 あの3人は、既に頂上で待っていた。また、変な笑みを浮かべている。


「おせーぞ」


「ごめん」


「でも、よく俺たちの厳しい特訓についてきたな!」


 俺たちの?


「え?も、もしかして石が飛んできたのも、変なモンスターに追いかけまわされたのも、君たちがやったの?」


「なんだよ。気づいてなかったのか?」


「そうだ。俺たちがやったんだぜ。特訓になっただろ?」


 手伝うって、そう言うことだったんだ…


「た、大変だったよ…」


「まあまあ、うまくいったんだし、いいだろ?それより、俺たちからご褒美があるんだ!」


 そう言って3人の内の1人が、金色に光る果物のようなナニカを差し出した。


「なにこれ…初めて見た」


「すげえだろ?お前を待ってる時に、近くで見つけたんだけどよ」


 3人は一度顔を見合わせてから、僕に言った。


「「「これ、お前食えよ!」」」


 見ると、ちょっと齧られた跡がある。そして、齧った部分と思われる金色のカケラがそばに落ちていた。


 不安になってきた。


「そ、それ、食べれるの…?」


「いいから食えって」


 2人が僕の口を大きく開けた。疲れていた僕には抵抗する力は残っていなかった。


「や、やめっ」


 そして1人が、口の中にそれを突っ込んだ。


 ああもう、どうにでもなれ!


 諦めた僕はそのナニカを咀嚼し、吸収した。


 3秒ほど、体が硬直し、


「………ま、まずゔぅぅゔぅえぇ」


 究極に不快な味に、この世のものとは思えない声がでた。


 その声を聞いて、3人は大爆笑。

 そして、


「ザコにはその声がお似合いだな」


 と言って去っていった。


 その後、僕は吸収してしまって吐き出せないナニカと格闘しつつ、家に帰った。家に帰ると、安心したのかすぐに気を失ってしまった。


 次に目が覚めたのは3日後だった。


 目が覚めると、涙でぐしゃぐしゃの両親がいた。

 両親の心配した顔を見た時、僕は無意識に口を動かしていた。


、もっと強くなるよ…」


 俺が強くなりたいと心から思ったのは、この時だった。


 この思いは、家族への愛情なのだろうか、はたまたただのエゴなのだろうか。


 なにはともあれ、これが俺の強さへの憧憬の原点だ。

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