第8話 咆哮
「よくも散々コケにしやがったな。掛かってこいよ、ぶっ潰してやる。」
こんなことを言いながら、俺は内心ひやひやしていた。
影の手に追加で魔力を使っているので、
確実に相手を仕留めるには、ベアーガのときのように2発当てることを考えなければならない。さらに、しっかり当てることが出来てももう1人をどうにかしなくてはならない。
ただ…それでも言いたかったのだ。弱くはないという事を。
「…」
リザードはもう挑発する様子は無く、槍を構えてじりじりと間合いを詰めて来ている。
バルールはボウガンを回避してから、さっきよりも大きな魔法を使う準備をしている。
俺は改めて気を引き締め、二本の影の手を出した。その瞬間、
「シッ」
リザードが一気に間合いを詰め、突きをしてきた!
「うおっ」
俺に槍を受ける術はない。すかさず影に魔力を送り、サイドステップする。
壁に滑り込み、時間を稼ぐ。使える魔力には限りがある。判断は慎重にしなければならない。
「おらあっ」
リザードが追撃してくる。
リザードにとって壁はあってないもののようで、お構いなしに槍を振り回す。簡単に壁は崩れ去った。
「くっ、そっ」
避けるので精一杯だ。魔力をかなり消費している。たまらず後ろに下がってしまう。
リザードとの間に壁がなくなる。
リザードはその隙を容赦なく突く。
「くらえや…
魔力の花びらが渦を作り、こちらに飛んで来る。
避けられない!
「!、メ、
魔法が衝突し、大きな爆発を生む。咄嗟の判断だったがどうにか相殺できた。
爆風が体を包む。
「ぐっ」
どうすればいい?そんな事を考えていると若者の声が一際大きくなった。
「おおっと!大きな爆発だ!…ん?あれはなんだ!?これは…メガを超える、ギガ級の魔法だぁ!」
火花放電によるバチバチとした音が聞こえる。
横を見るとバルールが巨大な雷の球を浮かべていた。
バルールが勝利を確信した笑みを見せた。
不味い!そう思った時にはもう全てが遅すぎた。
「こいつで消し炭にしてやるっキィ!
火炎じゃあ相殺できない!
焦りが思考を邪魔する。
考えが纏まらない。
くそっ、どうしようもないのか…?
…その時、親の魔力を感じた気がした。
このままやられて良いのか?そう言っているようだ。
いや…まだだ…!
まだ、1人倒しただけだ。勝負には勝ってない。
まだ、魔力は残っている。
親を…助けるんだ!
落ち着きを取り戻し、俺は目を見開いた。
バルールは
「うおおおお!!」
全力で
影の手を自らの体に巻きつける。
巨大な光の球の中に、小さな黒箱が入り込んだ。
「ぐあああぁぁ!」
体がギシギシと歪んだ音をたてる。
影が打ち消されていく。
耐えろ!耐えろ!耐えろおぉぉ!
「がああああぁぁぁ!!」
獣のような声を上げて、俺は必死に意識をつなぎとめた。
「キィッ!?」
超電撃をすり抜ける。そこには驚いた顔のバルールがいた。
案の定、回避する余裕はなさそうだ。
そして、俺は気が遠のきながらも飛んだ勢いのままにバルールを…喰らった。
「…
ビクンとバルールが跳ねる。残り少ない魔力を吸い取られ、バルールは気絶した。
魔力が体に染み渡る。脳が一気に覚醒する。俺はバルールを捨て、円の際に着地した。…危ない。ギリギリフィールドから出ていなかったようだ。
「なんということだ!この村で数人しか使えないギガ系統の魔法をうったバルールがダウンだー!!!そしてくらった筈の二人がまだ立っているー!」
ウオォォォォオオオ!!!
闘技場がヒートアップする
その中、俺の意識は一点を集中していた。
「お前も耐え切ったのか」
「あ?お前が当たった残りで俺様がやられる訳ねぇだろうが」
俺はすり抜けたが、あいつは受けとめなければならない筈だ。敵ながら天晴れである。
「その割に足元が覚束ないようだが?」
「はっ!それはこっちのセリフだ。もうお前、あの黒い手出せねえだろ」
「…」
やはりバレているか…
「じゃあとっとと終わらせますカァ」
「ああ、こいよ」
もう俺は影の手は出せない。火炎を撃てるほどの魔力も残ってはいない。いまの俺が取れる手はたった一つ、
「お前…ミミックにしてはそれなりに強かったぜ。あばよ、
魔力で加速することで実現された、残像が見えるほど高速の突き。
絶体絶命の状況だが、今回は不思議と心が揺らぐことはなかった。
極限まで鋭くなった感覚が、時間の経過を緩やかにする。
俺は突きを繰り出すリザードを見て、笑った。
それなら耐えられる…!
俺は槍を避けることなく…ぴょんと、軽く上に跳ねた
そして…
「
バキッと俺の体を槍が貫通する。激痛が電撃のように疲弊した体に響き渡る。俺は意識を手放さないようにするので精一杯だったが…
…それで十分だった。
ここはフィールドの端。
相手は最後の魔力を使い、限界まで引き上げられた速度で突きを放った。
俺が跳ねた事で槍は上を向くことになる。上を突くのは、かなり踏ん張り難い。
更に、踏ん張る瞬間、
「うおあっ…」
文字通り気が抜けた声でリザードは自分の体を前に放り投げた。槍を持つ力も残っていない。
砂埃が舞う。
この時ばかりは、村の皆も声を上げることなく結果を見守っていた。
フィールドには、体に穴が空いたミミックだけが残っていた。
「ウオォォォォオオオ!!!」
俺は吠えた。村に、親に、俺の勝利を伝える為に。
「な、何という幕引き…リザードは場外…Bブロック勝者は…なんと、なんとミミックだぁっ!」
ウオオオオォォ!!
観客席からの歓声を聞きながら、俺は、遂に意識を手放した。
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