クレオパトラマーベラス

長月 有樹

第1話

 生まれたときからずっと好きだったと言われてこんなに困った事は無い。理由は単純で言った相手が妹だから。血が繋がってるから。そりゃ困るに決まってる。と告白されてから三分くらいは経ったか、もごもごと口を動かすしかできなかった。


 妹から大事な話があると言われて、連れてかれた妹の部屋。ピンクに溢れていた妹の色は数年経って、カーテン、シーツが淡い青色に統一されており成長を感じられた。


 そこで妹に告白をされた。愛の告白だ。とんでもない弾丸を心臓に撃ちこまれてしまい慌てる。


「だってカッコいいじゃん」


 何での問いに妹から返ってきた答えは、かなりラフな答えでそれじゃ困る本当に困ると顔で足で手で、全身でソレをぶつける。


「そんなの逆に私が困るよ。だってカッコいい以外に無いんだもん。カッコいいのはカッコいいんであって、わたしの15年間長ー〜い人生で色々とみてきたよ、そりゃ。けどいないんだもん」


 妹は、動揺してる自分とは対称的に、居座った態度でいる。両腕を組んでジロリと自分を見つめる。その目線が怖くて、その先のものが怖くて。目線を横に逸らそうとしたいがソレすらもさせてくれない。


 何だっけ?見つめられたら石にさせちゃう怪物?お化け?ゴーゴンだっけ?何だっけ?とにかく石にされた。間違いなく。だって逸らすことができない。


 ソレは妹の何かが変わってしまうかもしれないのに逃げない。というある種の覚悟に負けてしまったのかもしれない。


 妹は続ける。何かを完璧に変えてしまおうと。あるいはもう引き返せないからと。


「うん。いないんだよ。そりゃ私だってマジで無いとは思ったよ。ビョーキなの?と震えたよ。けどいないんだよ。あんたよりカッコいい人が」


 両に組んでた腕を外して、妹は腕を後ろで組み替える。何故かが分かってしまった。手が震えてたのが見えた。怖いんだ。


「あんたより好きな人がいないの」


 堪えていたであろう涙が溢れ始めていた。


「この世界でこの宇宙で、何年前もきっとこれからの何年後も。絶対にいないって分かるの。これはね、もう予測じゃなくて確信。間違いなく私の中で1番好きなのはあんたなの」


 ぐしゃぐしゃになる妹を見る。好きなことは読書で視力が悪いから幼い頃からつけいた眼鏡は、中学の入学と同時にコンタクトレンズに変えて。


 ソレと同時に中学生デビューを狙ったのか、髪型もショートボブにして色も明るくなり、父親に怒られていた。


 恐らく学校でもそうなんだろうと性格も明るくハキハキしたものに変わっていた。甘えるその姿が可愛らしくて父親の怒りも気づけば収まっていた。


 けど自分の前ではローテンションで、いつも気怠く文庫本でミステリー小説をパラパラめくって、口数の少ない、いるかいないかも分かりづらい。そんな変わらない妹。


 ガッと勢いよく着古したバンドTシャツの襟元を掴まれる。カラダとカラダが引っ付く。見下ろすと妹の泣き顔。


「こんなに……こんなに好きなんだよ……だからお願い。私の事を好きって言って……言ってよ、愛してるって」


 止まらない涙の告白は、何よりも強弾丸だった。抉り取られた心が。


「お願い。お願いだから答えてよ。お願いだから私を好きって言って。そう言ってくれなきゃ……もうわたし」


 天井を見上げ、必死に訴えかける妹から逃げる。


 目を閉じる。繰り返される妹との思い出。


 そして覚悟を決めてもう一度妹の方へ顔を向ける。


「理彩。ごめん。理彩は好きだけどその好きじゃ無い。愛のカタチが違うんだ、理彩のと」


 妹の理彩にとって残酷過ぎる言葉を伝える。コレは絶対にひっくり返らない裁判なんだ。そう思って覚悟には覚悟で返す。


 その言葉を見上げながら聞いていた妹。顔は分かりやすく絶望だった。けれどもどこかその言葉を待ってたかのような期待をしていたようなものも感じられた。


 そして言葉を必死にたぐり寄せていた。


「そうだよね。うん、そうだよね。分かってはいたけど分かりたくなかった。無理だと分かってたけど伝えたかった。私の事を世界で一番愛してるって言って欲しかった」


 涙をぼろぼろ溢しつつ必死に笑う。必死に笑顔を作る。満面の笑みを。残酷なくらい眩しい笑顔を理彩はぶつけてくる。



「酷いや、お姉ちゃん。あんたの事をわたしは一生許さない。そしてずっと愛してるから」


 ひまわりのような笑顔だ。


 私は答えられなかった。何も理彩に返せなかった。姉妹だから愛せない。血が繋がってるから、女同士だから愛せない。


 ソレは嘘だ。


 愛のカタチが違う。


 ソレが嘘だ。理彩を愛していた。


 けどその愛は許されないモノと知っていた。だからずっと私は心に秘めていた。ソレは許してくれないんだ。


 同性の愛は当たり前のものになっていく世界。


 けどソレが姉妹なら?


 私は分かっていた。そして怯えていた。私自身に。だから理彩を受け止めることも恐れた。


 三年後、理彩死んだ。買ったばかりバイク取ったばかりの免許でスピードを出しすぎた事による転倒事故で。


 理彩とは全く話さなくなった。以前にはあった無言の心地よさも無かった。そんな状態で突然事故当日、私のスマホにショートメールが来た。


『ココは絶望で苦しいだけだから。私は光になる。やっぱりずっと愛してる安恵お姉ちゃん。』


 そんなメッセージは怖かった。辛かった。痛かった。けど私は生きる生きてやる。


 たかが愛なんかで死んでたまるかと私は今日もスーパーのレジを打ちに職場のスーパーマーケットへ向かう。


 愛なんかでくたばらない。そんなのくだらない。

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クレオパトラマーベラス 長月 有樹 @fukulama

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