飛び起きた君が愛おしい

みなづきあまね

飛び起きた君が愛おしい

既に辺りは真っ暗になり、社内の時計は19時半を指している。既に人はまばらで、大体遅くまでいつも残っているメンバーが、毎夜のように机に向かっている。


無言で仕事に励む人がいれば、休憩がてら近くの同僚と話し込む人もいる。ついさっき、険しい顔をして年下の女性が出先から戻ってきた。上司との立ち話がらここまで聞こえてくる。


どうやら17時までだったはずの他社からのプレゼンが17時半が近づいても終わらず、迷惑そうにしはじめたメンバーの様子を見て、痺れを切らして打ち切ったらしい。しかも、そのあとの話し合いも、17時45分には一度事情で外出しなくてはいけないと伝えたのにも関わらず、長々と続く話の目処は立たず、後輩たちにその場を任せて出発したとか。


病院の予約があったようで、少々の遅刻で済んだらしいが、ドタバタした数時間のせいで、遠目からでも明らかに彼女が疲弊しているのがよく分かった。


「はあ、疲れた〜もう聞いてよ!」


彼女は鞄を机の下に置くなり、隣の同僚に愚痴を話しはじめた。あの二人は同い年ということもあり、いつも何かしら話している。


疲れてるだろうな、と思いつつも、どうしても彼女に業務のことで伝えないといけないことがある。どうしようか・・・一度席を立ち、ゴミを捨てた足でぐるりと机の周りをまわり、反対側の区画にいる彼女のもとへ行った。


俺が彼女に話しかけようとすると、彼女は机に突っ伏しながら同僚と話を続けている。


「もう無理、しんどい・・・」


そんな呟きに非情とも思ったが、


「お疲れのところ、すみません。」


と、俺は彼女に声を掛けた。


彼女は顔だけぐるりとこちらに向け、俺の存在に気づくと、まるで寝坊した人のように驚いた顔をし、


「すみませんっ!はい、何ですか?!」


と、ガタッと音を立てながら立ち上がった。その素早さとうろたえ方が面白く、思わず笑いを噛み殺しながら、


「やめてくださいよ。大丈夫ですって。」


と、俺は彼女に伝えたが、まだあたふたしながら彼女はこう答えた。


「そんな!先輩にあんなだらっとした対応なんて出来ません!見なかったことにして下さい!」


その慌て方と赤面しながらの物言いがあまりにも俺の理性をかき乱した。


いつも凛々しく仕事をこなしている姿も好きだが、疲れ切った姿も好きだ。


そんなことを思い、数分後帰路についた。

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飛び起きた君が愛おしい みなづきあまね @soranomame

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