『人数が増えてわくわくも増えましたね!』

 宿屋の一室、俺が泊まる部屋に女子三人が集まった。

 ピュアリアが護衛のルルリエという女性に俺のことや現在の状況を説明するためだ。

 レーシィのことは……とりあえず、魔王の娘という部分はぼかして、友好的な魔族の少女で通すことにした。


「……と、いう訳なの」

「異世界の勇者様、それにハーレムという恐ろしい能力……姫様、世界を救うことは勿論大切ですけど、彼の側にいたら姫様がこの男の餌食となってしまうかもしれないのでしょう?」


 っておーい人聞き悪いな!

 俺だって好きでこんなモテモテになった訳じゃないんだぞー、なんて言ったら嫌味臭いけど。


「俺だって返品したいよ、こんな力……」


 特大の溜息が自然と零れる。

 他の村人の反応といい、これじゃあ迂闊に女性と接触できないな、と思ったところで目の前の女性に視線が移る。


「そういや、ルルリエだっけ? アンタは平気なんだな?」

「あら、勇者様とはいえアンタだなんていきなり馴れ馴れしいわね。ハーレムだか何だか知らないけど、そんないかがわしい力に惑わされたりなんかしないわよ!」

「へ?」


 おや、この塩対応……もしかしてこれは“ハーレム”が効いていないのでは?

 異世界に来て初めてまともな人がっ……と感激する間もなく、俺の背中にはふかふかとした布団の感触。


 そして視界は暗くなり、眼前に迫るルルリエの顔……あれ、俺押し倒されてる?


「けどよく見たら……結構可愛いわね、勇者様」

「舌の根渇かぬうちに惑わされてるー!」


 待って待って怖い、肉食系お姉さん怖い!

 押し倒しながらいろいろ押し当ててこないで!


「っていうか! お子様達が見てるから!」

「ル、ルルリエ、なんてことをっ……!」


 お子様には刺激が強すぎる光景にピュアリアは顔を真っ赤にして慌て、レーシィは思考が追いついていないのか固まってしまっている。


「はっ、あたしとした事が……これが“ハーレム”の力……?」

「正気に戻ったなら早く退いてくれ……」


 お子様たちはまだ大したことしてこなかったけどこの人は……今までで一番危機感を覚えたぞ、今回。

 あとたぶんハーレム耐性も一番低いんじゃないかなこの人。


「そういえばルルリエはピュアリアの護衛なのだな? どうしてピュアリアと一緒にいなかったのだ?」


 あ、それは俺も気になっていた。

 神殿内にも道中にも魔物は出なかったけど、それでもお姫様が……というか、少女がひとりでうろつくのは危ないだろう。


「それが……女神様のお告げがありまして」

「げっ」


 反射で思いっきり顔を歪めてしまったが、こんな目に遭わされた元凶の名前を聞いて嫌な予感がしない訳がない。

 あの女神が絡むとロクなことがない、というのが現状の俺の認識だ。


「魔物に襲われることはないから神殿にはひとりで向かうように、と……その方が勇者様に運命的な出会いを演出できるから、と? 何やらそのようなことを言われました」

「妙に意図的なものを感じるお告げだなおい」


 こちらの苦悩など知ったこっちゃない朗らかな声で『召喚された勇者様の目の前には一人の少女……ドラマチックで運命を感じる出会いじゃありませんか~』なんて言いそうだしそれがわかるのが嫌だ。

 モテモテだったらきっと楽しいだろうとか、恐らく女神はなんかそういう勝手な想像で行動に移していそうなところがある。


「半信半疑な部分もありましたが、幼い頃からよく出入りしていた神殿でわたくしも行き慣れていましたので……それに、多少ならわたくしも戦えますし」

「ニンゲンのお姫様がか?」

「ええ。王族は己の身を守らねばなりませんから」


 そう言ってピュアリアは先端に丸く大きな宝石がついた杖を取り出した。

 お淑やかそうな見た目的に、やっぱり魔法使いとかなのかな?


「それで魔法を使うのか?」

「いえ、これは殴打用です。遠心力をつけて、こう、思いっきり」

「殴打……」


 わあ、かわいい鈍器。


「魔法に杖? 聞いたことがないわね。異世界ではそうなの?」

「いや、俺の世界には魔法使いとかいないけど、なんかそういうイメージっつーか……」


 主にゲームとかのイメージなんだけど、なんて言って伝わるのかどうか。 


「まあいいや……とにかく、思ってたよりたくましいみたいで良かった」

「はい! シャラクさんを全力でお守りいたします!」

「われも守るぞ!」

「あん、あたしもよ!」


 まるでハーレムラブコメみたいな絵面だが、魔物とかが普通にいる世界のお嬢さん達は頼もしい。


「……とりあえず三人とも、手を放してくれないかなあ?」

「あ」


……“ハーレム”さえ発動しなければ、なんだけど!


 この道中、俺の気が休まる時は来るのか……新しい仲間が増えた今、改めて不安になるのだった。

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