『互いを知ることも大切ですね!』

 女神から無理矢理付与された“ハーレム”の能力によりお姫様どころか魔王の刺客にまで熱のこもった視線を向けられ、ややこしいことになってしまった状況。

 二人にもみくちゃにされた俺はとうとう何かがブチッと切れた。


「ピュアリア、それにレーシィも! そこに正座!」

「せ、せいざ……とはなんでしょうか?」

「俺がやって見せるからその通りに座れ!」


 正座なんて文化はなさそうな異世界だが、問答無用。

 一旦座って冷静にさせなければ埒が明かないと判断した。

……ひとつ申し訳ないのは、下に敷けそうなものがポケットに入っていた使用済みのハンカチ一枚ぐらいしかなかったことだけど。


「なにゆえわれまでこんな……」


 ぶつくさ言いながらちゃんと正座するレーシィ、実はいい子なのではと思う。


「キサマじゃなければ消し炭にするところだぞ」


 うん、前言撤回。


「誰相手でも消し炭はダメだぞレーシィ」

「わ、われに指図するな!」

「まあそれは置いといて、とりあえず話を聞け」


 ピュアリアにはチラッと話したけど、レーシィにも理解してもらう必要がありそうだ……俺のこのほぼ呪いみたいな特性について。


「まず俺は女神に異世界から召喚されて無理矢理勇者にされた。そこまではわかるな?」

「む、無理矢理なのか?」

「無理矢理だ。拒否権はない。言うだけ言ってヤツはどこへともなく消えていった」


 俺の話を聞いたレーシィは哀れみの目でじっと見つめてきた。

 上がこうだと言って押し切ると下の者は逆らえないのはどの世界でも同じなんだよ、お嬢ちゃん。


「なんでも異世界から召喚した人間には女神がいろいろ能力や特性を付加できるからこの世界の人間より手っ取り早いらしい」

「うむ、ズルだな!」

「ば、ばっさりですね……」


 さてここからが本題だ。


「たぶん今こうやって言葉が通じてるのも女神の力のひとつだろうし、身体能力が上がっているのも確認した。そこはまあいい。しかし問題は……いらないのに勝手につけられた“ハーレム”の特性だ」

「はーれむ?」

「女神曰く、無条件にやたらとモテモテになるらしい」

「ち、父上が聞いたら羨ましがる……!」


 いやダメだろ妻子持ちがモテモテとかハーレム羨ましがっちゃ。


「そしてわたくしはシャラクさんのその力で……は、初めてを、奪われました……」

「なんと⁉」

「人聞きが悪い!」


 初めては初めてでも初恋だからな、初めての恋!

 いやお姫様の初恋を三十路過ぎの冴えないサラリーマンが奪っちゃうのもマズいけど。


「つまりわれの初めてもキサマというコトに……!」

「肝心な部分抜かすなよお前ら。あと、そういう訳だから俺の事はノーカンとしてどうか正気に戻って他の素敵な誰かと恋をし直してくれ」


 俺が言いたかったのはそこだ。

 こんな訳のわからない特性のせいでうら若き娘さん達の想いがどうにかなってしまうのはしのびない。

 しかし仕組みがわかれば避けようがあるというものだろう……たぶん。


「そしてレーシィには頼みがある……他の魔族に俺に近寄るなと伝えてほしい」

「やはりその能力のせいで皆片っ端から初めてを奪われてしまうからか?」

「だーかーらぁー! あとたぶん初恋とは限らねーけど! 嫌だろいろいろと!」


 敵対心剥き出しだったレーシィもハーレムの対象外じゃなかった以上、同じことが起こらないとは言えないというかたぶん起こるだろう。


「……これだけ普通にしゃべっといて、今から俺とお前は敵同士だって言われたら、嫌じゃないか?」

「うっ」

「そういうことだ。俺だってそもそも誰とも戦いたくない。武器なんか持ったこともない平和な世界から来てるからな」

「でもそれならシャラクさん、どうやって世界を救うおつもりなんですか?」


 そこなんだよなあ。

 一応女神からは戦える力をもらってるんだけど……


「話し合いに応じてくれればいいんだけど」

「なんだ、そういうことならわれが話を通そうか」

「マジか? けど魔王に直接ってお前……」

「われの父上だからな!」

「ハーレム願望お父さーーーーーーん!」


 さっきの話聞いちゃったらなんか違う意味でやりにくい!


「それに父上にもシャラクを知ってもらわねば。いわゆる親公認の仲というヤツだな!」

「そ、そういうことでしたらわたくしのお父様にも……シャラクさん!」

「あれ俺これ進んで大丈夫? 魔王と王様に恨まれる流れじゃない?」


 どうあがいても『あやしげな能力で娘をたぶらかしたどこぞの馬の骨』なんだよなあ……


 いろんなことに不安を覚えつつも、これ以上余計な被害が広がらないうちに一刻も早く元の世界に帰らねばと思う俺であった。

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