『やっぱり最初のヒロインといったらお姫様ですよね!』

 異世界に召喚されたら勇者としてハーレムラブコメしながらこの世界を救う使命を告げられて超迷惑なんだが。

 そんなラノベのやたらと長いタイトルみたいな状況に立たされた俺のもとに、一人の少女がやってきた。


「この世界に危機が訪れた時女神様の導きで異世界から伝説の勇者が現れるという召喚の魔法陣に人が……あなたは、勇者様……?」


 うわ、なんという説明台詞。


 綺麗に切り揃えられたピンク色の長い髪、白を基調とした優雅で高貴な印象を与える衣装を纏うやや幼い顔立ちの美少女は俺を見るなり期待に目を輝かせた。


「そういうことになったらしいと変なヒラヒラした女神とかいうヤツに言われた」

「女神様に? ではやはり予言に記された異世界の……」

「お帰りはどちらだ」

「まさかの即帰る発言!?」


 何がまさかなんだ。

 こちとら数分前まで己の命の心配もほぼ必要ないような平和な現代日本で文明の利器に囲まれてぬくぬく育ってきたんだぞ。


「平和な世界にいた人間が急に呼び出されてわざわざ危険を冒して知らない世界を救えって言われるの無茶振りにも程がないか?」

「……返す言葉もございません……」


 しゅん、としおらしくなった少女はどうやら女神よりは話がわかる奴らしい。

 そう素直にしょんぼりされると、多少なりとも罪悪感が湧く……その奥ゆかしさ、ちょっとあの女神にわけてやってほしい。


「それで、大した説明もないまま去られてしまったんだが……ここはどこでアンタは誰だ?」

「あっ、はい。ここは召喚の魔法陣を祀る神殿でわたくしはこの国の王女ピュアリアと申します、勇者様」

「そうか。俺は……シャラクだ。漢字、なんてわかんないだろうから説明はしないけど」


 俺の名前は勇崎洒落……シャレと書いてシャラクと読む。

 まあ洒落の字を見てもシャレの方が通りが良い訳で、学生時代はダジャレ君だのシャレオツだの好き勝手呼ばれたんだが、ここではそんな事にはならなさそうだ。


「シャラク、さま?」

「あー、様とかくすぐったいから勘弁な。勇者様もナシで」

「では、シャラクさん。わたくしのこともピュアリアで結構です」


 うん、今のところ普通に話せているな。

 ハーレムだのモテモテだの言われて身構えたけど、そう簡単に惚れられるなんてことはないはず……だよな?


「そうだ、ピュアリア。ひとつ大事なことを言っておく」

「はい?」

「……俺に惚れるなよ?」

「…………」


 あっしまった、これじゃただの自意識過剰野郎だ!

 姫もポカンとしてるしこれたぶん引かれたんじゃ……


「シャラクさん……貴方という方はなんて、なんて……」

「えーと間違えたほらその女神様が召喚の時にさぁ……!」


 ハーレム回避はしたいが召喚早々現地の方になんかアレな奴だと思われるのはさすがにキツい、と弁解を試みた次の瞬間。


「なんて自信に満ち溢れた方なのでしょう……素敵です……!」

「なん……だと……」


 なんか余計なフラグ立った!

 ピュアリア姫は頬を赤らめ、宝石みたいに綺麗な目を潤ませてこちらを見ている……

 こんな熱のこもったうっとりとした視線、三十余年生きてきて浴びたことないぞ!


「普通そこは『うわ寒っ』とか『ないわー』とか冷ややかな‎目を向けながらドン引きするところだろ!」

「な、なぜそこまでする必要があるのですか……?」

「ていうか! 今アンタが俺にときめいてるとしたら女神につけられた変な特性のせいで惚れやすくされちまってるだけだから! 気の迷いなんだよ!」


 女神の力のせいだとわかれば冷静になれるだろう、そう信じて俺はピュアリアに力説した。


 その結果、


「ではこの胸が苦しくなる感じは……これが恋なのですね!」

「まさかの初恋だっただと……!?」


 よりまずいことになってしまった。


「ちょっと、あなた見たところまだ十代かそこらでしょ! こちとら三十路過ぎでキラキラ十代からすればオジサンよ、おまけに異世界の馬の骨よ!? ダメよそんなのに初対面で初恋奪われちゃ、お姫様ならなおさらもっと自分を大切になさい!」


 何故かちょっとオネエ様っぽい口調になりながら説得を試みるも、


「シャラクさん……こんなわたくしに真剣になってくださって、なんてお優しい方……」

「だめだこりゃ!」


 さらにうっとりされて終了。

 第一村人……じゃない、初っ端からこれとか先が思いやられる。


 これ以上誰とも出会いたくない……ていうか帰りたい。

 しかし恐らく退路が絶たれた以上、さっさと使命とやらを果たすのが一番だと悟るのだった。

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