ハーレム粉砕☆勇者様っ!
万十朗
『異世界ハーレム、お好きでしょう?』
――ここはどこだ。
最寄りのコンビニにフラっと足を踏み入れただけで、まさかそんな事を思う状況が来るとは。
何故なら今俺が目にしているのはこぢんまりした店内の棚にさまざまな商品が並ぶ光景ではなく、やけに広々とした場所で……俺をぐるりと囲むように等間隔に立つ石柱、足元には何やらほんのり輝く円形の紋様が描かれている。
「まるで日本じゃない……いや、いっそファンタジー的な何か……?」
そう、仕事帰りのくたびれたスーツ姿が浮いてしまうくらい、目の前のそれはファンタジーファンタジーした光景なのだ。
『ようこそ、異世界の勇者よ……』
「あ!?」
しまった、なんかさらっと面倒くさい仕事を押しつけてくる上司に似た波動を感じて咄嗟に素が出てしまった。
気まずく思いながら振り向けばそこにはヒラヒラした布を巻きつけたような服を着た金髪碧眼の美女が。
……あー、うん、たぶんネイティブの人だ。
遠い学生時代にとりあえずとった英検程度の知識じゃどうにもならんな。
「……ワタシエイゴワカリマセン、オーケィ?」
『ようこそ、異世界の勇者よ』
「同じセリフ繰り返すとか壊れたラジカセかアンタは!? って、今なんて……?」
突拍子がなさすぎて脳に届くまでに時間がかかったけど、言葉は通じてるし異世界の勇者って……?
『この世界は魔王に侵略されています。どうか助けてください!』
「うわーアニメかゲームの中みたいな展開だー疲れてんのかな俺そうか疲れてんだなそしてこれは夢だよし目覚めよう」
『……突然こんなことを言われて信じられないのも無理ありませんよね。ですがこれは現実です。どうか助けてください!』
「ゲームによくある“いいえ”を選ぶと無限ループするやつかよ!」
子供の頃それで渋々“はい”を選んだわ!
ていうか大人になってリアルでやられるとは思わなかった!
「……わかった。まずは話を聞かせてくれ。その上で断る」
『話を聞いてくださるのですね! ああ、これで世界に希望が……!』
「ポジティブの塊かよ。もういいや、ツッ込んだらキリがない」
何故か言葉が通じるこの美女は女神と名乗り、異世界から勇者として俺を召喚したと説明した。
つまり俺はコンビニの自動ドアを潜った瞬間、召喚によって別の世界に連れてこられたらしい。
「そういうのってもっと若さ溢れるアウトドア少年とかにしない? 若さの盛りも過ぎてるし、俺たぶん人類の中でも相当スペック低いぞ?」
『召喚の際にあなたにはいくつかの特性を付与しました。その点は大丈夫です』
「な、なんだそりゃ……そんなすごいことができるなら自分の世界の人間にやればいいだろ」
自分の世界は自分で守れよ、と俺は女神を睨んだ。
冷たく突き放すような言い方だが、いきなり連れてこられた人間がはいそうですかとすんなり言うことを聞く訳ないだろ。
『この世界にもそれなりの強者はいますが、私の力では召喚のゲートを潜った人間にしか新たな特性は付与できないのです……そして正直こちらの世界の人間よりもこうやって召喚して能力を付与した異世界人の方が強』
「ぶっちゃけやがったこの女神様……」
そしてなんともままならない事情だ……
「で、いくつかの特性って?」
『まずは当然ですが身体能力、戦闘能力はかなり高くなっています』
「うん、何が待っているかわからないもんな」
『それから長い旅になるかと思いますので、道中が楽しくなるように“ハーレム”の特性を付与しました。存分にお楽しみください!』
「うんうんハーレムか。ハーレ……え?」
今言ったハーレムって俺が知ってるハーレムのことじゃないよな、異世界語かな?
女子にキャーキャー言われながら囲まれるというあまり想像力のないイメージ映像を振り払いながら恐る恐る女神の言葉を待つ。
『特性“ハーレム”によりここでのあなたは無条件にやたらとモテモテです。楽しく世界を救ってくださいね』
そのまんまだった……!
『女神はあまり長く現世に姿を現せない身。それでは私はこれで……』
「あっ、ちょっ、待てこの!」
俺の制止も聞かず、勝手にも女神はさっさと姿を消してしまった。
やるだけやってろくな説明もなしに逃げるな!
「ハーレム勇者、か……」
どうしよう、めんどくさいに輪をかけてめんどくさい。
嫌な予感しかしない展開に、俺はがっくりと肩を落とした。
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