パンデミックサバゲ 《前日譚》

めあやん

第1話《収集》

「……で?なにか成果は?」

ガスマスク越しのくぐもった声が、埃まみれの廃れた研究室に響く。

「うるさい、少し黙って……フレッド」

フレッドと呼ばれたその男は、もう1人が操作しているパソコンを覗き込んだ。

「なんだ、全然じゃねぇか。天下のクレア様も堕ちたもんだなァ?」

「あら。なら代わる?」

「冗談じゃねぇ、機械は嫌いなんだ。俺はただの見張り役さ。」

「なら……」

クレアは腰のハンドガンを取りだし、フレッドの耳スレスレを撃ち抜いた。

フレッドがあわてて振り向くと、そこにはこめかみに大穴を開け、倒れている人間がいた。

手には鉄パイプが握られ、今にもフレッドに殴り掛かる直前だったのがみてとれる。

「見張りの仕事くらいキチンとして貰わないと。ね?」

フレッドは1本取られた、というふうに首を振り、持っているVectorを握り直す。

「見つけたわ。動画ログね。

日付は……2019年の4月18日。パンデミックの5日前……」

「やっとか?サッサとご開帳してズラかろうぜ。」

フレッドはパソコンをクレアから受け取り、再生ボタンを押す。

数秒の読み込みの後、画面には髭を蓄えた、メガネの研究者が写った。

研究者はスキフと名乗り、ロシア訛りの英語でウイルス LX-7レッドフィルについての説明を始めた。

その内容は周知の事実から衝撃の真相まで様々だった。その中でも、

「……ゾンビ化……?」

フレッドが食いついたのはそこだった。

どうやら、レッドフィルの変異体、LX-7Z──スキフはハイトリップと呼んでいた──は、死体の脳にウイルスの「心臓」を作り、人体を作りかえてしまうらしい。

体の損傷などに関係なく体を無理やり動かして様々な生き物に噛み付き、唾液感染させることで感染を拡大させているらしい。

「……さて。ご清聴ありがとう。

決行は5日後……我々の目的はもう少しで達成される……!!

ではごきげんよう。Удачи」


「……幸運を、ってか。クソ野郎が」

フレッドがため息混じりに呟く。

「行くわよ。時間が無い。ハイトリップのことも報告しないと。」

そうクレアが言い、パソコンに刺さっていたUSBを引き抜いた。

フレッドもパソコンをデスクに戻し、2人は研究室を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る