スワイジエット平城京

エリー.ファー

スワイジエット平城京

 幹の壊れる音がする。

 神社の裏だと思う。

 見に行こうとは思わなかった。

 嵐の過ぎ去った次の日のことである。


 木々が囁く声がする。

 きっとノートパソコンを探しに行った子供たちが何かを見つけたのだろう。

 見に行こうとして辞めてしまった。

 嵐も過ぎ去らない真夜中のことである。


 尋常ではない音がする。

 何の音なのかも分からないのに、興味だけは湧いてしまう。

 このまま嘘をついてみようと思って家に帰る。

 嵐が来ると噂される早朝のことである。


 日記帳を見つけたのは平城京の近くで、私は静かにその内容を確認していた。

 なんで、こんなところに日記がるのかも分からないし、そもそもこんなパーソナルなものを呼んでいいのかとも思う。

 タイムマシンが故障してここにきてしまった訳だけれど、もう、食料もないし、ここで野垂れ死ぬことになるだろう。

 言葉も通じないし、さっきなど追いかけまわされた。

 捕まったら。

 まぁ。

 殺されただろう。

 逃げるという選択肢は正しかったに違いない。

 私はその日記を持ち帰っていた。

 そして。

 自分でも日記をつけてみようと思った。

 死ぬまでの時間を記録してみようと思ったのだ。

 地球の食料が私の体には毒として機能してしまう。

 そのことを書いた。

 これでは、日記ではなく情報の羅列だろう。だが、そもそも、情報の羅列が日記なのかもしれない。そこにドラマが乗ればより一層作品としての価値が上がる。

 そういうものである。

 私は作品を生みたいわけではないのだけれど、どんな形でもいいからとも思ってはいない。できる限り、本当をそこに作り出したいし、自分自身を楽しませるものでありたいと思っている。

 日記は、子供の頃はつけていた。

 今は、していない。

 それ以外にしなければいけない行為が増えてしまったのだと思う。それが大人になることだと思うことにしているが、余りにも面倒なので考えたくはない。

 タイムマシンの燃料が尽きていく様子を絵にしてみる。

 そして、その下に文章。

 ただし、この日記を最終的に読むことになるのは地球人なので意味はきっと分からないだろう。

 それでいいのかもしれない。

 地球外生命体がいた、という証拠として使われるのだろうか。それとも、神のお告げだろうか。いや、ただの鼻紙あたりが妥当か。

 面倒なことをしたものだ。

 タイムマシンに簡易的な宇宙船としての機能が付いた乗り物を手に入れたからといって、調子に乗らなければ良かった。一気に二つの機能を使えばこの様である。

 誰かが、タイムマシンの扉をノックする音が聞こえる。

 私は扉を見つめる。

 ノックは二回。

 三回。

 四回。

 一回。

 二回。

 そして。

 静かになった。

 私は天井を見つめる。

 母星で帰りを待つ、子供と妻、そして、私の顔があった。

 地球のコミュニティは、私の星のコミュニティというものと概念的な定義が非常に似ているらしい。そのことも調べて見たかったが、分からずじまいである。

 また扉がノックされる。

 回数は分からなかった。

 叩く、壊す、そのような言葉が似合う衝撃だった。

「ワスッルルルテテロトルギオルスピニアルンドコール。」

 母星の言葉が聞こえる。

 聞き間違いだろうか。

 扉に触れてみる。

 ノックはもうされない。

 二度とされることはなかった。

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