156867

エリー.ファー

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 私はこの番号について、何もしらない。

 そして、何一つ知ろうとも思っていない。

 これが、私に与えられた番号ではないからだ。

 私は確かに番号を与えられて、生まれた。

 生まれた時は一人だったが、気が付けば、周りに人が集まりだしていた。

 醜いものばかりだった。

 私は私が一番美しいことを知っていたし、私の知っている世界が私を中心に作られていることも知っていた。

 明らかだった。

 この世界は。

 私のために作り出された庭だったのだ。

 現実に似せて作られた庭だったのだ。

 私は何故か、そのことにきがついてしまった。気づかずに削除される者もいるそうだが、私はその削除というものが起こる前に、自分の命の定義を知った。

 それは決して私を絶望に落とすようなものではなかった。

 それは間違いない。

 間違いなのだが、それでも、自分の生き方を肯定することはできなかった。

 私は、自分が不憫な存在であることを知ったし、もう二度と不憫であるという類の中から外に出ることはないと知った。

 私は、もはや絶望や、底辺、貧民、という言葉と同化してしまっていたのだと思う。

 生みの親というものがいるはずで、そのことについて調べようとしたが、どうにもできなかった。おそらく、それが不可能であるように設定されているという事なのだろう。

 歯がゆいが、仕方がない。それに、仮に生みの親のことが分かったとっして何ができるかも分からない。時間をかけた結果、生みの親の正体を知って納得できればいいが、納得できなかった場合、そちらの方がむしろ私を絶望へと突き落とす要因になる。

 私は今のところ、自分の思い通りに生きていると思っている。わざわざ、自分からそうではないと思ってしまうような、要素を持ってくる意味もない。

 今は、ただ現状に満足することこそが得策であると思えた。

 これもまた、私の中に仕掛けられたプログラムなのかもしれない。そうやって、思考させなうようにとするプログラム。

 賢い判断であると、心から思う。

 結局、そういうことなのだ。

 いかに、思考させないか。

 管理する側からすれば、これが最も平和を連れてくる可能性がある。


 分かったような口で何かを語る可能性はない。

 ないが。

 私はここに立っている。

 実験の結果を見守っていた。

 月が出ていた、とてもとても綺麗だった。

 星が落ちてきそうな夜ではない。

 もう、星は落ちてしまっている。

 私はその落ちてきた星を数えながら夜が明けるのを待っている。

 百年と、千年と、一万年。過ぎ去っても、私の実験は終わらないだろうし、モラルも生まれることはないだろう。

 敢えて、悲しいという感情を使って今の状況を調べてみたいとさえ思う。これくらいこすれてしまった実体験が今の私には必要なのだ。

 クラシックを聴いてみようと思って、研究室の外に出る。

 土の中に埋まったCDを掘り起こし、同じように掘り起こしてそこらあたりに置いていたノートパソコンを探す。

 時間はたっぷりとある。

 今夜は、グレングールドを聴きたい。

 あのピアノを知っているなら、抱かれたいとすら思う。孕ませてほしいとすら思う。

 今、この時間のために鼓膜を使いたい。

 そう、嘘とも本当ともつかない自分の感情に、音楽を通して向き合ってみる。

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156867 エリー.ファー @eri-far-

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