主人公、油断をつかれる 1
――大きな成果をあげた後というのは、どんなバカでも簡単に想像できる気が緩む瞬間のひとつだ。
だからこそ、用心深い人間は気が緩んだ瞬間を作らないように心がけ、事が終わってからも次に備えて動き続ける。
そうすることでしか、失敗をせずに成功し続けることができないと知っているからだ。
――ただ、そこには勘違いをしてはならない事実が存在する。
それは、どれだけ準備をして構えていたとしても、万人から付け入る隙が見当たらない状態を作ることは決してできない、という現実だ。
確かに、実力を持った人間が用心を重ねれば、殆どの人間にとって付け入ることができる隙など無くなるのだろう。
しかし、それはあくまで、そこに存在し続けている隙をつける人間の数が減ったというだけのことでしかないのだ。
緩む幅が狭くなった、というだけに過ぎないのだ。
ゆえに、運否天賦によってその隙をつかれることは避けようがないことであるし。
当然のことながら、用心を重ねる自身と同等かそれ以上の実力を持つ第三者からの襲撃は防げない。
そして。
彼が自身の油断をつかれたと自覚したのは、襲撃者が彼に攻撃をしかける、まさにその瞬間のことだった。
●
それは、国と個人の戦争が終わり、戦後処理も終了した後に起こったことだった。
街中を歩きながら、次にどう動けばコトが前に進むかと考えていたときのことだった。
国を相手に勝利をおさめて気が大きくなっていた部分もあったのだろうが、思索に入った瞬間にようやく気が付いたのだ。
――街中にあるべき喧騒がいつのまにやら存在しなくなっているという、状況の激変に。
しかし。
その変化が第三者によるものであることに気が付いたときには、既に手遅れだった。
「――――」
次の瞬間には体の中心から全身を揺さぶるような衝撃が走ったような感覚を得て。
視線を下に向ければ、そこには本来存在しないはずのナニカが生えているのが見えた。
――ただ、体を貫くそれが何なのかは重要なことではなかった。
重要なことはふたつ。
ひとつは、攻撃された場所だった。
放っておけば死ぬ傷であることは間違いないが、一撃で命を絶つ類のものではない。
……殺す気で来てないなら、次がある。
そして最も重要なもうひとつは、襲撃を受けた時機だった。
大国と呼ばれる国において最も強いと称された者でも、自分の誤魔化しを見抜けなかったからこそ今がある。
ならば、いったいどんな存在であればその誤魔化しを越えて自分を襲撃することができるだろうか。
……状況から順当に考えれば、襲撃者は国よりも強い個人が新たに増えることを嫌っている存在だろう。
さらに加えて言うならば、大国の英傑よりも実力が上の――自分の実力を過剰評価しているわけでもないのなら――それこそ単身で世界を揺るがす怪物であるはずだった。
……そんなものに該当する存在は、この世界にもそんなに多くは存在しないだろうよ。
また、そんな怪物の中において、国や社会における力関係を気にしなければならない存在はおそらく一人しかいまい。
……思った以上に早くかかったが、失態を演じる形になったのは少し悔しい気もするな。
もっとも、思惑通りにコトは進んでいるのならそれが全てだ。
……この後に自分がどうなってしまうのか、という部分については賭けでしかないが。
いつものことか、と。
そんな言葉を最後に思って、意識が落ちた。
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