不安

「ママ、せーこはわがままなの?」



 ママは小首をかしげて、こちらを見ている。


 化粧をしていない、理知的なまなざし。


 なんとなれば、私、ちょっぴり愚痴りたくなってた。



「彼がね……」


「まあ、セーコ。彼氏ができたの、おめでとう」


「あ、お兄ちゃんから聞いてないのか。おめでとうをありがとう。で、その彼氏がさ、タピオカ食べてるときにカエルの卵の思い出を話してきたりするの」



 ママはくすっと笑って、鷹揚に言った。



「男の子はそういうの、好きよねえ」


「そうなのかぁ。でもタピオカ食べてるときに言わなくてもいいじゃない?」



 さりげなく同意を求めると、ママは目をぱちぱちさせて聞いてきた。



「それで、なんでセーコがわがままなの」


「私、卵、じゃないや。タピオカ吹き出しちゃって。で、今日学校に行ったら、友達みんなが知ってるの。恥ずかしいったらありゃしない――」



 ママは微笑んだまま、こちらを見ている。



「恥ずかしいからやめてって、言いたかったんだけど、時すでに遅しっていうか。みんな、私が拓人に怒っているのは――あ、拓人っていうんだ――そのカエルの卵のせいだって、思ってるの。違うのに――」


「怒ってごめんねっていえば。その、拓人くんに」


「だから、カエルの卵は関係ないの。私がタピオカ吹き出しちゃったことを、みんなに言いふらされたのが嫌なの。そこは今もって怒ってるんだけど……」


「拓人くんに、そう言ったらいいじゃない」


「弱みを握られるのは嫌」


「正直ねえ」


「ねえ、ママ。どうしたらいいと思う」


「そうねえ、どうしましょうねえ」


 ママはTVのリモコンのスイッチをいれ、流し台のほうへ行ってしまう。


「あ、ママ――」


「セーコ」


 嫌な予感。


「洗濯物、とりこんでおいてね」


 ほら、当たった――。


「はーい……」

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