タバコ

みどり

おぼろ

正午を過ぎたころ ボロアパートの窓際にさしこむ温かな春の日差し。光は煙に阻まれ、やわらかく散っていく。

窓からの逆光で、テレビにうつる昼の主婦向けエンターテインメント番組は真っ暗闇の中だ。遠くからくぐもった音が聞こえる。

リビングに充満するタバコの香りが、肺を満たすのを感じながら、皿を洗う手は動かし続けた。


「ハハハ」と父は笑った。タバコをふかし続け、楽しげに笑う口からは煙が溢れ出る。

奇妙だ。


気がつけば今日のバイトの時間が迫っていた。

「いってきます」

蛇口を固く締めた後手早く準備を済ませ、今出てきたばかりの玄関に鍵をかける。

そして扉を背に深呼吸をした。

吐いて、吸ったら春の穏やかな空気を今朝起きてから初めて感じる。

「はぁ、幸せ」

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