クーラーくんは冷たい
楠楊つばき
クーラーくんは冷たい
真夏の生命線と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろう。
水分、冷たい飲食物、冷感グッズ、日差しを遮る傘やすだれ、化粧品、冷房などなど。
その中でも一部の人の頭を悩ませる、クーラーについて話をしたい。
『クーラーくんは冷たい』
重要なのは一部の人に対してだけ冷たいということである。
世の中にはいるだろう。冷房の設定温度が高いと、周囲に確認をとらずにぐんぐん下げていく輩が。
人が裸の状態で快適と感じる温度は20度らしい(風はないものとする)。というのに20℃さらには19、18と下げていく。なぜ自ら快適な温度より寒い環境に身を置くのだろう。ちなみに冬は何℃にしているのか教えていただけないだろうか。耳打ちでどうぞ。
さてここで、登場人(?)物の紹介しよう。
悩みの種であるクーラーくんは三兄弟である。
部屋の中央でどっしり構える長男に、その両脇をかためる双子ちゃん。なお長男と双子ちゃんのリモコンは別である。長男のみ、双子ちゃんのみのときもあれば、全員が出勤していることもある。たいへんご苦労さまである。
人の多い空間の場合、最初に出勤した人が冷房をつけることが多いだろう。しばらくしてから扉を開けて、きんきんに冷えた職場に足を踏み入れたとき、思わず扉を閉めて帰りたいと思ったのは私だけでないと信じたい。なので出勤早々することは長男の設定温度20℃をぎりぎりまで上げることである。
動き回る仕事ならまだしも、デスクワークはだいたい座りっぱなしである。理由がなければ席を離れにくい。膀胱炎になる前に立ち上がろう。
他の部署から伝票が届いていないか、以前はふらっと席を離れることもあったが、完全隔離された空間に引っ越してからはできなくなった。ついにはあまりの寒さに廊下で日向ぼっこをするようになった。気分は縁側である。軽いストレッチもすれば少しは楽になった。
寒さについて、冷房の形状によっては風よけなるものをつけているところも多いだろう。
長男にはこの風よけが四方向設置されているが、双子にはない。これがまた悲劇を生み出す。
風の当たりやすい人が風よけを自ら設置することもあるだろうが、長男も双子ちゃんも業者に連絡をし、風よけを連休中に手配してくれることになっていた。
しかし連休明けに来てみれば、長男にしか設置されていない始末。加えてあまり効果を感じない(後日、気の利いた方が時間外に調整してくれた)。
そして長男が改善されて一安心と胸をなで下ろしていたら、なんと双子ちゃんが牙をむき始めたのである。
双子ちゃんの凶悪さは局地的(両端の席)に風を感じることにある、風の届かない席にうまく座られた方はクーラーが動いていることに気付いていないかもしれない。
なんてうらやましいのだろう、ぜひその席を譲ってほしい。
話を戻そう。双子ちゃんの片割れの風は私の頭部から肩まで直撃した。頭を上から押さえ付けれられているようで、頭痛薬を手放せなかった。顔面の風もうっとうしいので、風よけをつけられないならば私の頭に風よけをつけたかった。たまにカーディガンやひざ掛けを頭に被っていたのは私である。そこまでして、私が寒がっていることをようやく周りに気付いてもらえる。私としてはこの寒さの中で半袖でいる人の方が信じられなかった。
暑さ寒さを大きな声で発言する人物がいないため、みんながどう感じているかは必然的に探り合いになる。お昼休憩で気の置けない人と確認をとれたときはいい。そうでないとき、隣の人に毎回尋ねるのも気が引ける。特別に涼しい日ならまだしも、毎日となれば聞かれる方がうんざりしてしまうに違いない。毎日が冷蔵庫に詰められている気分であった私は、どうすればよかったのだろうか。
『クーラーくんは冷たい』
きみの冷たさに逃げてしまいたい。
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