第24話 思わぬ展開


 2日後。

 魔植物温室。


「——お疲れ様、調子はどう?」


 1人で作業していたケリーに、先輩のオリビアが話しかけてきた。


「オリビア先輩、お疲れ様です。調子は……まあまあですよ」

「そう……。あの……ケリーくん、最近ケインを避けてない?」


 ケリーはケインの名前を聞いて顔を強張らせる。


「え……?」

「ケインは特にだけど、他の男性研究員も避けてる気がするの……。なんかあった? 気のせいならいいんだけど」


 ケリーはケインのことがあってから、男性と話すのが怖くなっていた。

 もちろんアダムは例外だ。


「…………」


 なんと返答すべきかわからず、ケリーは黙ってしまった。


「ケインがすごく落ち込んでるの。他の子たちも心配してたわ」

「……実は——」


 ケリーはケインにされたことを打ち明け、それがトラウマになって男性が怖くなったことを正直に話した。


「え? でも、ケリーくんって……男でしょ? もしかして……?」


 ——男が恋愛対象だって勘違いしたかな? 別に勘違いされてもいいか……。


「妹とか……女性のみに囲まれた生活をしていたのでよくわかりませんが……。でも、今はケイン先輩が怖くて……」


 オリビアはケリーの肩をポンポンと軽く叩いた。


「そっか。なら、私が守ってあげるから心配しなくていいわ。研究室メンバーは野蛮な男ばかりだからね」

「ありがとうございます……」

「みんなにうまく説明しておく。私に任せておいて! でも、できるだけ普通に接してあげてくれない? あからさまに避けるような感じだと、みんな傷つくみたいなのよ……。無理しない程度でいいから」

「……善処します。オリビア先輩にはご迷惑をおかけしますが」

「いいのよ。事情さえわかれば、なんとでもなるから! いつでも相談してね」

「ありがとうございます」



***



 翌日。


 まだ研究室メンバーとぎこちない距離感だったが、ケリーはケイン以外と会話するように心がけていた。

 やたらに多かったボディタッチがなくなったことが大きかった。


 早めの昼食をとろうと、ケリーは研究室を出た。


「——ケリー! ちょっと待て!」


 廊下を歩いていたケリーは、その声を聞いて震え上がる。


 ケインがケリーの元へ走ってきた。


「なんですか……?」


 ケリーはケインに目を合わせようとしなかった。


「ケリー、すまん、オリビアから事情は聞いた。ちゃんと謝りたくて!」


 ケインは深々と頭を下げた。


「い、いえ……。もう大丈夫です」


 ケリーは震えながら答えた。

 ケインはその様子に胸を痛める。


「俺が全部悪いんだ。酔ってて記憶がなくて……。俺はお前に対して下心はない。後輩の1人として見てるだけだ。気分を害すようなことをして、本当に悪かった」


 ケインの平謝りな態度に、ケリーは申し訳なく感じるように。


 ——本当は、お兄さんみたいでいい人だからな……。できるだけあの事は考えないようにしないと。自分のためにもなるもんね。


「今後、あんなことがなければ大丈夫ですから……」

「あぁ、ぜってーしねえよ! 誓うから!」


 ケインは再び深く頭を下げた。


「お願いしますね」


 2人はその後、一緒に昼食をとることになった。





 カフェテリア。


「——言い訳に聞こえるかもしれねーけど……。飲みに行った時、お前の口から『アダム』って名前を聞いたから……。なんか『エバ』のこと思い出しちまって。エバは昔の後輩なんだけど、お前ちょっと似てるしよ。すげー傷ついた状態でそのエバってやつが研究室に来てさ、原因はアダムっていう男なんだけどよ……。可哀想だなって思ってたら、いつの間にか好きになっちまって……。そいつそんな状態で死んじまって……」


 告白同然の話を聞かされ、ケリーの胸中は複雑だった。

 この話をこれ以上したくないケリーは、話を切り替えることに。


「もう、その話はよしましょう。ケイン先輩は今、好きな人いないんですか?」

「え!? なんでそんな話になるんだよー」


 急な話に、ケインは顔を赤くする。


 ——この反応からして、いるんだね。なんとなく予想できる人がいるんだけど……。牽制してみるか……。


「オリビア先輩っていい人ですよねー」

「——お前もか!」

「も!?」


 ——わかりやすっ。


「な、なんでもねーよ!」


 ケインは顔を少し赤くしながら、大きな口を開けて肉を頬張る。


 ——ジニー先輩もオリビア先輩のこと好きみたいだからなー。研究室内でドロドロ恋愛劇にならなければいいけど……。

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